小さな世界

作られた前髪、動画で話題のワンピース、店頭先頭に並んでいた新作バッグ。


「今日もばっちりオッケー」


キャンパスに行く時はいつも、どこに行くよりも一番の武装をしている。頭の上に出ている点数、道行く中では私が一番。


ただ、キャンパス内に入るとそうはいかない。これからがはじまりだ。


「やっばー、それさインフルエンサーが着てたやつっしょ。そんな被り着てくるとかはずっ」


火蓋が落とされた。夜になったらどこにいるのかわからなくなりそうな暗黒の鎧を纏った真っ赤な唇が、下卑た笑みを浮かべている。


「人と被るとか恥ずいよね」


さも、私が王者とでも言わん顔で笑っている彼女の瞳には、自身を嘲るものの姿など一つも映っていない


彼女の世界では、きっとみなが目を輝かせて自分を見つめ、周囲がボロ着を着ているように映っているのだろう。


なんと哀れな。


今日の私の輝きは誰にも負けない。みすぼらしい見た目をしたものども、先週幾度と見た服を着ている可哀想な子。


そう、ここでは私が王者。

ここだけでは。

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