雑踏

キンキン響く音、ザーザー流れる音、音とも言えぬくぐもった粒。


毎日流されるように進んでいるけれど、私には何も届かない。自分の体がいるところは、ただのグリーンバッグなのだろう。


映画かドラマかで見た光景を、きっと脳が作り出しているのだ。進む先には何もなく、過ぎ去るものもまた空虚。


「痛い」


途端に自分も粒であったことに気づく。歩みを止めた途端に、右腕に、背中に、パンプスのかかとに、粒たちがぶつかる感覚を感じた。


キンキン聞こえていた音の中に、はっきりとした汚らしい音が聞こえた。私はそこから一歩も動けなくなった。


結局人間なんてさ、魚の群れと何も変わらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る