第68話「月音の正体とは」

 月音達は、カジノから帰って来て数日後に学校に来ていた。


『……』


 眠理は、一人で考え込んでいた。


 月音の正体を探ってくれ、それが秤蜘蛛から与えられた命令で、星音には内緒にしてくれと言われた。


 眠理は単刀直入に月音に尋ねた。


『月音ちゃん、私と会う前はどんな性格でしたか?』


「ん? どうしたの眠理ちゃん?」


 月音は、いつも通りの明るい顔を浮かべていた。


 月音が言う前に美咲が発言した。


「あー月音かぁ、コイツとは高校に入ってから知り合ったけど、なんか常にボーとしてて魂が抜けてる奴だなぁとは思ってたよ」


「え? 前の私そんなんだっけ?」


「はぁ? 覚えてないのか? なんか死人みたいだと思ってたけど、話しかけたら面白くてな、んで私がバンドに誘ったらメッチャ上手くてさぁ!」


 これまでの情報を整理すると、ブラックジェイドとは黒翡翠病患者の心の闇を燃料にして願望を叶える能力。


 つまり、使えば使うほど闇が消えて明るくなるのでは?


 今の美咲からの証言を聞く限りでは、むしろブラックジェイドを使い続けた方が良いのでは?


 ん? だったらなんで星音は、以前の月音の事を黙っているのだ?


 世界そのものを憎む? 今の月音からは想像できない。


 一体、彼女の過去に何があったんだ?


 更に情報を引き出したいが、これ以上は危険だと判断した眠理は話題を変えた。


『そう言えば、月音ちゃんとパンダちゃんは、カジノに行ったのですよね? 楽しかったですか?』


「う、うぅん? 途中から記憶が曖昧だけど、なんかスロットマシンで大当たりしたのは覚えてる」


「あ、私はトランプの兵隊達のパレードを見たぞ! しかも私と踊ってくれたぞ!」


「なにぃ!? そんな楽しいイベントがあったのかよ! パンダちゃん、写真があったら見せて見せて!」


♡♤♧♢


「つまり、眠葉虫の結論として、ブラックジェイドを使い切ってしまった方が良いと?」


 眠理は、スマホで秤蜘蛛に報告していた。


『そうです。心の闇を燃料にしてるから、月音ちゃんは明るい性格になったと思います。ならば以前のような世界規模の願望はもう起こらないはずです……とは言え、懸念点があります』


「何です?」


『月音ちゃんの心の傷が何なのか分からない。私は月音ちゃんの事を何も知りません。星音様が口を割らない限り何とも言えないです』


「うーん、じゃあ夢蟷螂の脳喰洗脳(ブレインハッキング)で心を読んでみます?」


『ですが、世界を憎むレベルの心の傷……とても想像できないです。夢蟷螂には過酷かと』


 手詰まりかぁ、何だこの得体の知れない悪寒は。


 本当にブラックジェイドを使い切って良いのか?


 だが次の問題は月音本人の心の傷。


 一番手っ取り早いのは、アメリカの哲百足とイギリスに居る重飛蝗の二人の情報があれば黒翡翠病を治療して万々歳だが……。


「あーーーーー!」


『ど、どうしたのですか秤蜘蛛?』


「僕はねぇ! こう言う他人の過去とかプライベートな事を詮索せんさくするのが大嫌いなんですよ! よし、決めた、こんな暗い話題なんて棚に置いてやる!」


『と、言いますと?』


「国連から以前にケルベロスを倒した時のチケット貰ってるので、温泉旅行にでも行って月音様と星音様には心も体もあったまって貰います! だって次は数ヶ月後にドイツの闇組織と戦うのでしょ? そんな先の戦いが控えてるのに身内の腹の中探るとか疲れます! ファントムさんには悪いですが、一旦放置で!」


 と言う事で、秤蜘蛛によって、月音達は温泉旅行に行く事になった。

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