第67話「闇の願望」
「おぉ! 本当に手足の生えたトランプカード達が歩いてるぞぉ!」
パンダとシャムは、トランプの兵隊達によるパレードを楽しんでいたが、その後ろで克奈とアザラシが倒れていた。
「せ、接待ポーカーって、こんなに難しかったのかよぉ、20分耐久とか普通に死ぬわ」
「ふ、ふふ、でも克奈様、我々は子供達の夢を守りましたよ」
♡♤♧♢
数日後。
ファントムは、告死蝶の基地に来て、秤蜘蛛の仕事部屋であるサーバールームに来ていた。
「ファントムさん、まさかアナタが130年前の黒翡翠病患者と縁がある人物だったなんて知りませんでした」
秤蜘蛛は心の中で叫んでいた。
ーーやっべぇ! そんな重要人物に滅針蟻を送り込んで、ペシャンコにしようとか考えてた過去の自分を殴りてぇ!
冷や汗を流している秤蜘蛛に、ファントムは笑顔を向けた。
「何、気にするでない秤蜘蛛。しかし、ワタシから見たら、みんな若いのぉ。ワタシが見た目は小僧で中身がジジイなだけだが」
ファントムの気遣いに感謝しつつも、秤蜘蛛は例の件を尋ねた。
「それで? アナタはブラックジェイドの正体を知ってると? そして、星音様には言えないと?」
「そうだ。あの子は若すぎる……さて、秤蜘蛛よ、君は何でも願いが叶う能力を手にしたら、その力を信じるか?」
「?」
ファントムの意図が読めない秤蜘蛛であったが、すぐに解答した。
「僕は信じません。そんなの何か代償とか必要でしょ?」
「そうだ、願いが叶うなんて古今東西の伝説や伝承でも何か代償が必要だ。ならば、ブラックジェイドが何でも願いが叶う能力だった場合、何を代償にすると思う?」
「うーん……寿命?」
「近いようで違うな。正解は心の闇だ。人間は心に傷を負うと、そこから心の血液である『闇』が溢れる。それを放置すると人格に悪影響ができて、最悪の場合は犯罪に走るか、自殺に走る。ブラックジェイドは心の闇を燃料にして願望を叶える能力なのだ。しかし、月音さんのブラックジェイドの規模が世界全体だと聞いたが、本当かね?」
「え、えぇまぁ」
ファントムが考え込んでいると、何か気付いたらしく、秤蜘蛛に尋ねた。
「秤蜘蛛、月音さんは元から明るい性格だったのか?」
「え? さぁ? 星音様から何も聞いてないですが……」
「やはりか、星音くんに黙ってて正解だった。これは仮定だが、水無月 月音は元々明るい性格ではない、むしろ世界そのものを憎んでる危険性がある」
「……そんなバカな」
秤蜘蛛は、星音から月音が黒翡翠病を発症してから月音を影からサポートするようになったが、それ以降の事は知らない。
いや、星音からは聞かされていない。
「気を付けろ秤蜘蛛、星音くんは意図的に月音さんの正体を隠してるぞ。それが姉を思う彼なりの行動だが、このまま放置するのは危険だ。シュトゥルムアングリフとの決戦は数ヶ月後と見た。それまでに月音さんの正体を見極めてくれないか?」
ファントムが会釈して立ち去った後に秤蜘蛛は思った。
ーーまた仕事増えちゃったよ。嫌だー。
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