第64話「夢を守る大人達」

 テキサスホールデム。


 ポーカーゲームの一種であり、全世界で一億人ものプレイヤーが居る人気のマインドスポーツである。


 ルールをザックリ説明すると。各プレイヤーに2枚のカードが配られて、コミュニティカードと呼ばれる5枚の共通カードを使ってポーカーの役を作って勝負するゲームである。


 これは相手のブラフテルなど、相手の仕草やアクションを観察する頭脳ゲームである。


 そのゲームで実際に本場アメリカでテキサスホールデムの大会で優勝した経験のあるアザラシは非常に困っていた。


「スリーカード!」


「フォーオブアカウンド!」


 テキサスホールデムの経験のあるアザラシなら分かる。


(馬鹿な、なんでパンダ様とシャム様は、そんなに強い役を作れるんだ?)


 意外かもしれないが、テキサスホールデムは、基本的には8割ぐらいフォールド(その対戦を降りる)して次の対戦をするゲームなのだが。


 パンダとシャムは全然フォールドしないどころか、かなり強気なアクション(行動)ばかり使っている。


 しかも考える時間すらなくアザラシの出番が来るのだ。


 アザラシは、対戦相手が勝負に出るかフォールドするか、その悩んでる姿を観察してブラフや癖を把握するタイプである。


 つまり、アザラシの戦法が全然通用しないタイプが、パンダとシャムの水無月家が誇る最強元気っ子二人組である。


 アザラシは、ディーラーがカードをシャッフルしてる隙に、隣に座ってる克奈の肩を軽く叩いた。


「か、克奈様、少しよろしいでしょうか?」


♡♤♧♢


「すみません、このままだとパンダ様とシャム様に負けてしまいます。助けてください」


「おーい、アンタはプロのポーカープレイヤーじゃなかったのかよ?」


 克奈とアザラシは、次のラウンドが始まる小休憩の間に、パンダとシャムに聞こえないように内緒話をしていた。


「パンダ様がご希望のトランプの兵隊達によるパレードまで20分かかるのです。その間だけでもワタシに助力してくれませんか?」


「えぇ? あの二人に勝てる気がしないんだけど?」


「いえいえ、勝たなくて良いのです。単に二人に、特にパンダ様にポーカーを飽きさせないようにしてほしいだけです」


「んな高等テクニック、もはやポーカーじゃなくて接待ポーカーじゃねーか」


「……良いのですか? 克奈様は保護者ですよね? パンダ様がポーカーに飽きてパレードが始まらなかったら、パンダ様はどんな気分になります?」


「……」


 克奈は、脳内でイマジナリーパンダを作って脳内シュミレートした。


 ーーふぇ? 手足の生えたトランプカード来ないの? う、うぇぇぇぇん!!


「泣くな」


「でしょぉ? ここはワタシ達、大人が犠牲になる事で子供達の夢を守ろうではありませんか」


 なんやねんコイツ。フランスの闇組織の幹部だと思うけど、なんでここまで我が身を犠牲にできるんだ?


 このアザラシと言う人物を教育したアルセーヌのボスの顔を見てみたいものだ。


 こうして、克奈とアザラシによる接待ポーカーが始まった。

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