第61話「ポーカーで踊る?」

「改めまして、ワタシは『アザラシ』と言う者です。アルセーヌ社が誇るプロポーカープレイヤーです」


 克奈、パンダ、シャムの前に長身の男アザラシが現れた。


 克奈が二人を守るように警戒していると、パンダがアザラシに向かって指差した。


「なぁなぁ、アザラシとか言ったか? なんでここの人達は仮面を付けてるの?」


「これはこれは、うるわしいレディ。我々アルセーヌ社の者と一般のお客様を区別する為のルールです。ご理解していただけると幸いです」


「そっか! それなら分かりやすいな!」


 パンダが笑顔を浮かべるが、克奈は保護者としてアザラシに詰め寄った。


「アザラシさんと言ったっけ? プロのポーカープレイヤーらしいけど、まさか私達をナンパしに来たの?」


「とんでもない、ワタシは皆様に当カジノを楽しんでほしいだけなのです。ですが、ナンパと言えばナンパになってしまいましょうか」


 アザラシが深々と頭を下げて、克奈達にお願いした。


「アナタ様達は月音閣下の関係者。閣下の大切な人に危害を加えるつもりはありません。ですが、実はポーカーの席が空いてまして、どのお客様も別のゲームにハマってしまってて寂しかったのです」


「あ、じゃあ私はアザラシの相手やるぞー」


 と、パンダが言うと、シャムも手を上げた。


「はいはいはい! シャムもアザラシと勝負したいぞぉ!!」


「こら、お前ら! 知らない人の誘いに乗るなよ!」


 克奈が保護者らしい事を言うと、アザラシは頭を上げて喜んでるように見えた。


 仮面してるから表情なんて分からないけど。


「なんと心優しいお嬢様方だ! この哀れなアザラシの相手をしてくださるとは! では、このアザラシとポーカーで踊りましょう!」


 この時、パンダの中で疑問符が浮かんだ。


(ポーカーで踊る? ポーカーはトランプを使ったゲームのはず……?)


 アザラシが何を言ってるのか分かってないパンダは、頭の中で手足が生えたトランプカードとアザラシが踊ってるイメージが湧いてしまった。


「なぁアザラシ」


「なんでしょう?」


「このかじの? には手足が生えたトランプカードが居るのか?」


「……?」


 アザラシは理解できなかった。え? どう言う発想をしたら、そんなのが出てくるの?


 ……! まさか!


「レディ、お名前を聞いても?」


「水無月 パンダだぞー!」


「パンダ様、もしや……トランプの兵隊の事を言ってますか?」


「? とらんぷのへいたい?」


 トランプの兵隊。不思議の国のアリスに登場するハートの女王を守る手足の生えたトランプカードの兵士達である。


「え、違うのか? かじのには、手足が生えたトランプカードが居ないのか?」


 パンダが泣きそうな顔を見てアザラシは紳士としての直感が働いた。


 こんな純粋な少女の夢を壊してはいけない!


「パンダ様、ワタシとポーカーが終わったら、トランプの兵隊達によるパレードが始まりますよ」


「ほ、本当に手足が生えたトランプカードが見れるのか!?」


「もちろんです」


 アザラシは、パンダに背を向けてスマホに向かって仲間に連絡した。


「緊急事態だ。今すぐトランプの兵の格好をしてパレードを始めろ。何? 無理? ワタシがポーカーで時間を稼ぐから何とかしろ」


 アザラシがスマホを仕舞うと、パンダ、シャムに向かって軽く会釈をした。


「お待たせしました。パンダ様、シャム様、今からポーカーテーブルへと、ご案内します」


「「わーい! 楽しみー!」」


 アザラシの後ろをついて行きながら克奈は思った。


(コイツら本当にフランスの闇組織なのぉ?)

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