第60話「罠に掛かった蛾」

 僕は、カジノの中でシロイルカを探していた。


 もちろん一人で。


 初めて会った時からムカつく奴だと思っていた。


 顔を仮面で隠すわ、僕の手首つねるわ、暴言まみれのカード送るわ。


 何なんだアイツ、ムカつくムカつく。


「お嬢ちゃん、何か焦ってるようだね。少し落ち着いたら?」


「あん?」


 僕が振り返ると、ドリンクを持った仮面の女性が立っていた。


 本当になんで、このカジノは仮面付けた奴が多いのぉ?


 僕は無言で女性が渡してきたドリンクを受け取って飲んだ。


「……へぇ、僕の好物がコーラだってことも調べてんだ?」


「あら、何のことかしら? オホホホ」


 わざとらしい。


 空になったグラスを女性に渡して、僕はシロイルカを探していると、ついに見つけた。


 仮面だらけで分かりづらいが、あのキザ野郎の後ろ姿だけは分かる。


 なんか知らない部屋に入ったぞ。


♡♤♧♢


「やーい、罠に掛かってやんのバーカ!」


 僕はシロイルカが入った部屋に入ると、天井から檻が落ちてきて、僕は閉じ込められてしまった。


「……それが君の本性? 姉さんの前ではキザ野郎を演じてたけど、仮面を剥がしたら僕と同じガキじゃん」


「あったり前じゃん、あんなの営業スマイルだよ。いや仮面してるけど……コホン、では星音様、いや騙蛾様、ワタクシとゲームをしましょう。ワタクシに勝ったら月音閣下を諦めてやる」


 前々から思ってたけど、何でコイツら月音姉さんの事を閣下と言ってんだ?


 てか、アルセーヌって、どんなゲームにも応じる連中だよな?


「くくく」


「何笑ってるのですか?」


「お前達アルセーヌのやり方は知ってんだよ。どんなゲームにも応じるんだろ? なら僕が提案したゲームで勝負しろ」


「ふふふ、檻から出られない可哀想な蛾のゲームですか、良いでしょう。何をするのですか?」


 僕の好物まで調べ尽くす連中だ。と言う事は、コイツらなら僕のゲームに応じるはずだ。


「ズバリ、『僕の性別を当てろゲーム』!!」


「……頭狂ったのですか? アナタ様は月音閣下の弟の……!?」


♡♤♧♢


 この時、ワタクシ『シロイルカ』は気付いてしまった。


 そうだ、騙蛾様のバックには、あの男が居る。


 情報戦において世界最強の男、告死蝶No.2『秤蜘蛛』。


 月音閣下が黒翡翠病患者だと分かるだけでも苦労したし、黒翡翠病患者から黒翡翠を摘出したなんてカバーストーリーを作って我々は混乱の極みに陥った。


 ま、まさか、目の前の女装した騙蛾様は、実は弟ではない?


 この情報すら嘘?


「どうした? 仮面してても焦ってるのが伝わってくるよ?」


 く、ワタクシと同い年だと思って甘く見ていた!


 目の前に居るのは告死蝶のボスだぞ? 普通に戦って勝てる相手じゃないから、あの手この手で策を弄したのに。


 あ、焦るな、我等がボスに月音閣下を捧げるのがワタクシの使命。


 ボスを救えるのは月音閣下だけなのだ!


「分かりました。じゃあワタクシからも提案があります」


 ワタクシは、仮面を外して騙蛾様に素顔を晒した。


「ワタクシ、シロイルカの性別を当てると言う趣向に挑戦するのはどうでしょう?」


「……は? 君は男じゃないの?」


「ふふふ、さぁ、真実はどうでしょう?」


 こうして、騙蛾様とワタクシの性別当てゲームが始まった。

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