第62話「若返り病」
「なんか沢山出たぁぁあ!?」
私が一人でスロットマシンを回してたら、メダルが大量に出てきた。
やばいやばいやばい! 大当たりなのは分かるが、メダルが止まらない!
私が大量に出てくるメダルの滝に焦っていると、仮面を付けた男女二人組が受け皿を用意して、メダルをこぼさないようにしてくれた。
「おめでとうございます月音閣下!」
「0.008%の大当たりを引きました!」
う、嘘くせぇ〜。
てか、そろそろ良い加減にしてほしいんだが。
「あのさぁ、私はアナタ達の閣下でも何でもないし、普通の女子高生なんだけど? 新しい嫌がらせか何か?」
「? えーと、月音閣下、自分が『黒翡翠願望具現(ブラックジェイド)』を使って我々を呼んだのではないのですか?」
「は? ぶら……何?」
何を言ってるのだ、この人達は。
「……なるほど、どうやら、お互い勘違いしてたらしいですね」
「そうそう、勘違い勘違い」
すると、男女二人が私に聞こえない声で相談を始めた。
数秒後。
「月音閣下、無理を承知で、お願いしたいのです。アナタ様は自分が何者か理解してない様子。ならば何も知らなくても良いのです。どうか、我々を救ってはくれませんか?」
「まさか、私を呼んだ理由には、ちゃんとした理由があるんだよね?」
「はい……まずは、アナタ様に会ってほしい方が居ます」
♡♤♧♢
私は、まぁ仮面を付けた男女二人組に案内されて向かった先には、巨大な部屋にポツンとベッドが一台あるだけの質素な部屋だった。
「ファントム様、月音閣下をお連れしました」
仮面の男性がベッドで寝ている一人の若き少年に向かって言った。
この人も仮面をしてるが、顔の右半分しか隠れてない謎の仮面をしていた。
髪は真っ白で、ツヤもない、まるで病人みたいな少年だった。
そして、何やら苦しそうに呻いていた。
仮面の女性が、目の前の少年の自己紹介をしてくれた。
「月音閣下、この方は我々アルセーヌ社の18代目社長のファントム・オブ・ザ・ブラッド様です。この見た目ですが86歳です」
「……はぁ!? 86歳!? 同い年にしか見えないよ!?」
「驚かれるのも無理はありません。ファントム様は不治の病に犯されているのです。ファントム様を救えるのは、この世界で黒翡翠願望具現、すなわちブラックジェイドが使える月音閣下だけかと」
「な、何の病気なの?」
「若返り病、実はファントム様は最初は老人の姿で生まれたのです。ですが歳を重ねると若返ってしまう先天的な病を患ってしまったのです」
は? んな病気あるのかよ。
「でも、若返るのは良いんじゃないですか?」
と、言ったが、仮面女性は震える声で言った。
「……最初は文字が書けませんでした。声も出せませんでした。同い年なのに友達も作れませんでした。我々では想像を絶する孤独を味わいながら、ファントム様は生き抜いたのです。周囲の人達は歳を重ねて老いるのに、自分だけが若返る、自分だけ置いてかれる。この方はアルセーヌの為に命を賭けた人なのです。その方が、もうすぐ寿命で亡くなる。こんな惨めな最後を迎えてほしくないのです!」
とうとう女性は泣き崩れてしまった。
と言っても私に何ができるんだ?
すると、仮面の男性が台本らしき物を渡してきた。
「失礼を承知で言います。ここに書いてある事をファントム様に向けて読み上げてくれませんか? そうすれば、アナタ様はブラックジェイドを発動してファントム様の寿命を止められるかもしれません」
私は台本の中身を見て衝撃を受けた。
うげぇ、これ読むの? 今会った人に向かって?
い、嫌だぁ……でも、人の命がかかってるんだよな? なら、やるしかないか!
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