第41話「怪獣VS珍獣」

「カバーストーリーを作るぞ」


 パンダとの対決前夜、星音は夢蟷螂、逆角蝉、灼熱蜂に作戦の有無を伝えた。


「まず、パンダは黒翡翠病の事を知らないようだ。最初は演技かと思ったが、アイツと一週間過ごして分かった。アイツは黒翡翠が何なのか分かってない様子だった」


「そんな事ってあるの?」


 夢蟷螂から当然の疑問が飛んだが、星音は肯定した。


「全ての人間が黒翡翠病を知ってるわけじゃない。パンダみたいに闇の世界の人間でも知らない事だってある。なので、コイツを使う」


 星音は、眠葉虫が用意した本物の宝石としての黒翡翠をみんなに見せた。


「これを黒翡翠病患者から摘出した黒翡翠と言う事にする。冷静に考えたら、この世界に実物の黒翡翠病を見た人間なんて居ないだろう」


「つまり俺達は、その偽物の黒翡翠を守る事で、あたかも告死蝶が本気で黒翡翠を守ってるような演出をするってわけか」


「Aaaaa……」


 義理に熱い男である灼熱蜂に、こんな願いを頼むのは心苦しいが、これも世界の命運をかけた戦いである以上、嘘を本物にするしかない。


「できるか? 灼熱蜂」


「俺は嘘とか苦手だが、俺の頑固さで世界が滅んだら笑い話にもならない。良いだろう、その嘘に付き合ってやる」


「すまないな、灼熱蜂」


♡♤♧♢


「AAAAAAAA!!」


 逆角蝉が渾身の一撃をパンダに叩き込んだが、華奢なパンダからは想像もできない怪力を発揮した。


「へぇ、やっぱ怪獣って強いだ……でも、パンダの方が強いから」


 信じられない事に、3mもある巨大な逆角蝉の鋼鉄の体を片手で持ち上げた。


 逆角蝉の肩に乗っている夢蟷螂はパンダに脳喰洗脳ブレインハッキングを発動した。


「眠って!!」


「うっ!? 何これ、頭痛い……ううああああ!!」


 パンダは片手で逆角蝉と夢蟷螂を投げ飛ばし、二人はビルの壁に激突して、そのままビルを貫通して反対側の歩道に出てしまった。


さかちゃん!」


「AAAAAAAA!!」


 二人はすぐに体勢を立て直したが、目の前には絶望的な光景が広がっていた。

 

 パンダが、片手で何トンもある大型トラックを持ち上げていたのだ。


「潰れろ!!」


 頭上から襲い掛かってくる大型トラックの圧力に逆角蝉は両手で受け止めた。


「AAAAAA!!」


 その衝撃波は、逆角蝉の足元の地面がクレーターみたいに陥没かんぼつするレベルの力だった。


「私は、絶対に負けないぞ! 月音達から貰った黒翡翠で、この世界を平和にするんだ!!」


 パンダは、トラックから手を離して、宙に浮かんだかと思ったら、素手でトラックを殴り飛ばした。


 小柄な少女であるパンダからは信じられない怪力である。


 トラックと共に吹き飛ばされながらも、夢蟷螂は逆角蝉にしがみついて、必死に何度も脳喰洗脳を連発した。


「いたっ! 何これ? あの肩に乗ってるチビがやってるの? あぁぁイライラするなぁ! 頭に響くんだよぉ!!」


 すると、パンダは素手でコンクリートの地面に手を突っ込んだかと思ったら、そのままアスファルトを引き剥がして、その巨大な破片を二人に向かって叩き付けた。


「倒れろぉ!!」


「AAAAAAA!!」


 まさに、怪獣VS珍獣の戦いである。

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