第35話「人の優しさを知った」

「寒い!」


 12月の半ば、雪はまだ降ってないが寒すぎて学校を行くのを諦めて冬眠したいレベルだ。


 私はいつも通り通学路を歩いていると、目の前に倒れてるチャイナ服の女の子が居た。


「……えぇ!? ち、ちょっと大丈夫!?」


 私は急いで駆け寄ると、女の子の目がぐるぐるになっていた。


「あ、あいやー、お腹空いた。携帯食料全部使い切った」


「こんな時代に行き倒れ!? あーえと、その……あ、そうだ!」


♡♤♧♢


「なるほど、通学路で見つけた行き倒れの中国人の少女の面倒を見てほしいと?」


「お願いキジトラちゃん! 私、学校に行かなきゃだから!」


「かしこまりました月音様、その子の面倒は私達が見ます」


♡♤♧♢


 ん? なんだ? 何か良い匂いがする。


「あ、目が覚めたぞー!」


 目の前には褐色肌のメイド服を着た少女が居た。他にも黒髪ショートや、ゆるふわパーマやら、茶髪ロングヘアーのメイドが居る。


 ……ここが冥土めいど


「あ、目が覚めたのですね。今時行き倒れなんて大変ですね。中国から来たのですか?」


「あ、あいやー、そうなのだ。探し物があって来たけど、全然見つからなくて、日本って中国よりも小さい島国だから余裕かと思ってたけど、仲間ともはぐれてしまって、途方に暮れてたのだ」


「それは大変ですね。名前は何と言うのですか?」


「パンダと言う者です」


「まぁ、私はキジトラと申します! パンダさんですね、とても可愛いと思います! ささ、お腹が空いてるでしょう。ご飯を用意しましたよ」


 私はフラフラの足取りで案内されると、中国では見た事がない綺麗で美味しそうな食卓が並んでいた。


「こ、これ全部食べて良いのか?」


「はい、おかわりもありますよ!」


「えと、い、いただきます!」


 箸か、ちょっと使いにくいけど、まずは目の前の光り輝く白米を食べる事にした。


 口に入れた瞬間だった。


 口の中で革命が起きた。


 そこからの記憶は曖昧だが、私は白米、鮭、味噌汁、中国では味わえなかった贅沢な食事のとりこになっていた。


「お口に合いましたか? 服も汚れてますね。洗濯しますので、お風呂に入った方が良いですよ?」


 私は誤解していた。日本人って中国人に対する偏見が強すぎるイメージがあったけど、こんな見ず知らずの私の為にここまでしてくれるなんて、なんて優しい人達なんだ。


 あれ? なんかもう、黒翡翠見つけるよりも、この人達の優しさに甘えた方が良くないか?


 ボスには申し訳ないですけど、パンダは日本人の優しさに甘えさせていただきます。


♡♤♧♢


「はぁぁぁ、あったまるぅ」


 お風呂なんて何年振りに入ったろうか? こんなにもあったかいものだったなんて知らなかった。


 風呂から上がると、サビネコと呼ばれたゆるふわパーマのメイドが衣服を用意してくれた。


「パンダさん、探し物を見つけるのは大変だと思いますが、今は休んだ方が良いですよ?」


「うぅ、そうさせて貰います」


♡♤♧♢


 あったかい、布団があったかい、こんなにも心があたたまる出来事が連続で起こって良いのだろうか?


 私はパンダ、ボスが信頼してくれた諜報員なのに、なんか任務とかどうでも良くなってきた。

 

 私は日本人の優しさに心を癒されながら、気持ち良く寝ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る