第31話「混沌の始まり」

 今でも覚えてる。


 私が不治の病を発症する前の星音は女装を嫌がっていた。


「お姉ちゃんって、本当に男の娘好きだね」


「デュフフ、星音の女装姿見たいな。一度でも良いから見せてよ」


「えー、嫌だよー、僕は女装なんてしなくても可愛いし」


 女装の力を借りなくても星音が可愛いのは認めるし、女装を嫌がってる星音を見るのも楽しかった。


 だが、私が不治の病を発症してから星音は変わった。


「見て見てお姉ちゃん! 今日はゴスロリに挑戦したよ!」


 あんなに女装を嫌がってた星音が自ら女装に目覚めた。全ては私の為だと分かってても。


 これが萌えだと、これこそ男の娘を楽しむ方法だと思い込んでいた。


 だが違った。私は、星音のギャップ萌えを楽しんでただけなんだ!


 そんな時に女装した星音に救われたよ。


 お陰で、今まで封印していた私の本性を抑える事ができていた。


♡♤♧♢


「な……」


 キジトラは戦慄していた。手足をロープで縛られてる目の前の女性が立ち上がったのだ。


「キジトラちゃん、私に向かって『月音お姉ちゃん大好き!』と言ってくれ」


「何を言って……」


「やるんだ!」


 なんだ、この気迫? 目の前の女性は何者なのだ?


「え、えーと、つ、月音お姉ちゃん大好き!」


 ーー『黒翡翠願望具現ブラックジェイド』発動!


♡♤♧♢


「え?」


 秤蜘蛛はサーバールームで月音の監視をしていたが、月音からは秤蜘蛛ですら知らない未知のエネルギーが計測された。


「な、なんだこれは!? 月音様を中心に謎のエネルギー波が放出! これでは、これでは130年前と同じ、いやそれ以上だと!? 大変です星音様! 今すぐ月音様を止めてください! このままでは、世界が再び混沌の渦に巻き込まれます!」


♡♤♧♢


 黒翡翠病ではなく、普通の黒翡翠と言う宝石について解説しよう。


 黒翡翠とは産出量が少なく、権力や地位の象徴とも呼ばれている。


 その名の通り黒くてシックな色合いが人気を博してる宝石で、黒翡翠には以下の効果があるとされている。


 厄除け、幸運、健康長寿、事業繁栄、浄化作用、人徳を高める、強靭な精神力や集中力を高める。


 そして、願い事が成就する。


 月音の中にある黒翡翠病が何なのか分からないが、今現在、月音を中心に黒翡翠の魔力が世界規模に拡散し、世界各地の闇に生きる者達は理解した。


 ーー黒翡翠が日本にある!


 もはや、秤蜘蛛や国連の力では情報統制できない規模のエネルギーが放出し続けていた。


♡♤♧♢


「な、なんなの? なんなのお姉さんは!」


 キジトラは怯えていた。目の前の未知の存在に畏怖していた。


 月音を拘束していたロープが溶けるレベルの謎のエネルギー。


 そんな中、月音は確信している事を告げた。


「私は、男の娘萌えに生きる女、水無月 月音だ!」


 キジトラに限らず、全ての動物に共通する事がある。


 それは、弱者は強者に服従すること。


 人間社会がどれだけ複雑化しても、この摂理は変わらない。


 気が付いたら、キジトラは月音にこうべを垂れていた。


「つ、月音様、あ、ああ貴女様に服従します! 我々宗教組織『イエネコ』は今日から貴女様の配下になります! いや、配下にさせてください!」


 キジトラが恐怖に怯える姿を見ながら月音は思った。


(……ん? なんでキジトラちゃん土下座してんだ?)


 月音は自分のせいで世界が狂ってる事実に、まだ気が付いていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る