第30話「鉄壁怪獣」

 キャットキラーは思った。目の前の鎧の怪物は巨大な鉄の要塞だと。


 生半可な攻撃は通用しない。


 仕方ない、最初っから全力を出すか。


「殺し屋が目立つのは、良くないからな。さっさと終わらせ……」


「Oooooooo!!」


「ぐぁ!!」


 鎧の怪物がタックルして来た。まるで岩石が意思を持って襲い掛かって来たような重量感を感じる。


 星音の後ろから店員や客達が心配そうに鎧の怪物とキャットキラーの戦いを見ながら、一人の客が呟いた。


「な、なんだ、あの鎧のバケモノ?」


「あの子はさかちゃんだよ。見た目で誤解されるけど、夢ちゃんと同じで優しい女の子だにゃん」


 店員や客達が緊張する中、猫耳を付けた夢蟷螂が猫のポーズを取って、この場にいる全員を安心させた。


「つ、つまり味方なのか? が、頑張れ逆ちゃん!」


「AAAAAAA!!」


「夢ちゃんごめん! 全然優しい子に見えない!」


 逆角蝉の姿が鉄の怪獣にしか見えないのだから仕方ない。


 だが夢蟷螂の言う通り、明らかにコミュケーションが取れない逆角蝉だが、無闇に人を傷付けるタイプではない事をボスである星音自身が理解している。


「くそが! テメェみたいなバケモノに仕事を邪魔されてたまるか!」


 キャットキラーは、背中のバッグから巨大なハサミを取り出した。


 人一人を簡単に切断できそうな凶器だった。


「ははは! これが俺の仕事道具! これで多くの猫どもを殺して来たのさ! お前も殺してやるバケモノ!」


 キャットキラーが手にしたハサミがチェーンソーみたいな音を立てて煙を吐き出しながら逆角蝉に斬りかかった。


「死ねやぁ! ぶげぇ!?」


「AaoaAAaaa!!」


 逆角蝉の単純な腕力だけでキャットキラーを地面に叩きつけた。


 どう見ても人間VS怪獣にしか見えない。


 だが、逆角蝉が鎧を着てると言う事は、彼女は自身の能力を使わない証明であり、彼女なりの慈悲である。


 なんせ、彼女の能力『因果逆転ペナルティカウンター』が、あまりにも危険な能力なので、彼女は絶対無敵の鎧で自分と相手を守る為に戦っているのだ。


 因果逆転の効果を知ってるのは、この場で星音と夢蟷螂だけである。


 たった一撃でキャットキラーを倒した逆角蝉は、勝利の雄叫びを上げた。


「Ooooooooooo!!」


 キャットキラーを倒したが、未だに逆角蝉に怯えてる店員や客達を安心させる為に、夢蟷螂は逆角蝉の肩に昇って、脳喰洗脳ブレインハッキングの能力をフル稼働させた。


「みんな、落ち着いて。逆ちゃんは絶対にみんなを傷付けない、むしろみんなを守る為に戦ったんだよ? さぁ、もう怖がらないで、夢ちゃんが保証するから」


 脳喰洗脳は、何も相手を倒す能力だけでなく、相手を安心させるポジティブな使い方もある。


 夢蟷螂は、視界に映る全ての人間達を落ち着かせたが、店員や客達は、皆一様に夢蟷螂にひざまずいた。


「幼女様だ」


「幼女様が我等を守ってくれたのだ」


 古来より、人々は自分達の理解を超越した現象が起こると、全ては奇跡、全ては神の御業みわざとしてあがたてまつる。


 今ここに、新たな伝説が生まれた。


 無辜むこの人々を脅かす悪漢を、鋼鉄の獣を従えた幼女様が守ってくれたと言う都市伝説が誕生してしまった。


 すなわち『幼女様伝説』。


 後に女装伯爵と並ぶ都市伝説となるのだが、その伝説が誕生する瞬間を見た星音は心の中で思った。


(みんな単純すぎない?)

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