第29話「キャットキラー」

「きゃー! 夢ちゃん可愛いー!」


 夢蟷螂が女装をした店員達によって猫耳を付けられていた。


 店員だけじゃなく、他の客も喜んでいた。


 コイツらロリコンなの?


 さっき、キジトラと呼ばれた店員に姉さんがスタンガンを当てられた時は焦ったが、どうもアイツから敵意のようなものは感じなかった。


 それに、夢蟷螂の能力『脳喰洗脳ブレインハッキング』の応用として、夢蟷螂は目が合った相手の心を読む事ができる。


 と言っても漫画みたいに完璧に読めるわけじゃないし、夢蟷螂がまだ小学生な事もあって、年上の心を読むのは得意ではないが、少なくともキジトラからは姉さんを害する気配はなかった。


 それに、姉さんと離れ離れになる為に敢えてキジトラを泳がせる必要があった。


「おーおー、やっと見つけたぞ子猫ちゃん達」


 店内に入って来たのは工事現場で働くような姿をした男だった。


「いらっしゃいませー! 一名様ですか?」


「あぁ、ここがイエネコの本拠地だな? 女装伯爵と言う架空の存在を使って信者を増やしてる子猫ちゃん達のなぁ」


「……失礼ですが、どちら様ですか?」


「俺はイエネコを潰す為に雇われた業者だ。悪く思うなよ」


 男は店員をいきなり殴った。


 店員が小さな悲鳴を上げたので、他の店員や客達が男を睨んだ。


「てめー! サビネコちゃんに何しやがる!」


「あらら、すっかり猫どもに洗脳されてる可哀想な連中だな。俺の雇い主はイエネコを敵視してる奴でな。女装に目覚めた奴が増えると困るってわけで、今からお前達を殺処分してやる」


 悲しい現実なのだが、殺処分されてる猫の数は一日60匹らしい。


 理由は多岐に渡るが、ほとんどが飼い主の飼育能力が低下した結果、保健所が60匹もの猫を殺処分してるそうだ。


 人間と猫が、いつ頃から共存するようになったのかは具体的には分かってない、少なくとも約9500年前の墓からは人骨と一緒に猫の遺骨も埋葬されてたそうだ。


 詳しい内容は割愛するが、それだけ人間と猫の歴史は古い以上、どうしても殺処分と言う現実に直面しなければならない。


 この男はプロの殺し屋で、猫のコードネームや猫の名前を冠する人物や組織ばかり狙ってる事から『キャットキラー』と呼ばれるようになっている。


 秤蜘蛛の情報網で「たぶん、黒翡翠病とは関係ない人物ですが、注意した方が良いでしょう」との事だったが、確かに目の前の男の目的は、この店の従業員を文字通り殺害する事なのだろう。


 やはり、彼女に救援要請を出してて良かった。


 告死蝶の目的とは無関係だが、目の前で人が大勢死ぬのは見たくない。


「さーて、どの子から始末しようか……ぬぁ!?」


 キャットキラーが何かしようとした瞬間、キャットキラーの背後から巨大な鉄の手が現れて、キャットキラーは店の外に引き摺り出された。


♡♤♧♢


「な、何が起こ……はぁ!?」


「Aaaaaaaaa!!」


 キャットキラーの目の前には、全長が3mにまで達する巨大な青黒い鎧に包まれた怪物が立っていた。


 顔は怪獣のような凶悪な顔になっていて、両手両足には獣のような鋭い爪が生えていた。


 どう見ても人間には見えない。


「なんだこのバケモノ!?」


 星音が店から現れて、鎧の怪物に命令した。


「そいつを倒せ『逆角蝉さかさつのぜみ』」


「AaAaoooooo!!」


 信じられないが、この鎧の怪物こそが、告死蝶No.7『逆角蝉』であり、星音が救援要請を送った相手である。


 ちなみに、見た目が怪物ではあるが、ちゃんと人間である。


「くそ! 猫どもを狩る簡単な仕事じゃなかったのかよ! なんでこんなバケモノと戦う事になるんだ!」


「OoooooAaaaa!!」


 市街地で鳴り響く獣のような咆哮ほうこうを上げながら、逆角蝉とキャットキラーの戦いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る