第26話「迷探偵月音」

「星音、星音てっさ、もしかして女装伯爵に出会って女装に目覚めたの?」


「え? どうしたのお姉ちゃん?」


「実はかくかくしかじか」


「はぁ、女装伯爵なんて初めて聞いたけど、単純に僕はお姉ちゃんに喜んでもらいたくて女装してるだけだし」


 星音、マジ天使。


♡♤♧♢


『えぇ? 月音様がそんな意味不明な事件を解決する事になったのですか?』


 僕は念の為、秤蜘蛛に連絡した。


「君はどう思う秤蜘蛛」


『うーん、まぁ女装伯爵の存在は知ってましたが、僕のA〜Eの5段階評価で言えば脅威度は最低ランクのEですね。ぶっちゃけ、これまで相手にしてきた犯罪者やケルベロスの一団に比べたら大した事件ではなさそうですが』


「僕もそう思うが、だが黒翡翠病の事もある。もしも女装伯爵の正体が凶悪犯罪者だったら?」


『これまでの情報だと狙われてるのは男子学生だけですよね? 女性である月音様が狙われるとは思えないですが。それに凶悪犯罪者と言う線は薄いかと、被害者達は女装癖に目覚めただけで外傷はないですし』


「こんな馬鹿げた事件に告死蝶のメンバーを使うのはボスである僕としても不本意だが、誰か使えそうなメンバーは居るか?」


『大した事件でもありませんし、今回は戦闘とか無いと思いますので、普通に夢蟷螂だけで良くないですか?』


「だよなぁ、灼熱蜂に頼んだら絶対怒りそうだし」


♡♤♧♢


「月音お姉ちゃーん!」


「夢ちゃーん!」


 久しぶりに公園で出会った小学生の夢ちゃんと再会した。


 まさか星音とメル友になっていたとは。


 今日もメルヘンなエプロンドレスを着ている。


 私と星音と夢ちゃんは、被害者達の証言を元に市街地に来ていた。


「ふむふむ、被害者に共通してるのは、街を歩いてたら女性伯爵に声を掛けられて、そのまま秘密の場所に連れてかれた。でも、そこがどこなのか分からないと」


「月音お姉ちゃん、なんか夢ちゃん達『探偵』みたいだね」


「ほう、言われてみれば……よーし! 我らが『美少女探偵団』が女装伯爵をやっつけるぞー!」


「おー!」


 私と夢ちゃんが意気投合してると、背後に居る星音が何かぶつぶつ言っていた。


「探偵かぁ、アイツが居れば良かったけど、なんで連絡できないんだ?」


「ん? 星音、何か言った?」


「え、あぁ、何でも無いよ、お姉ちゃん」


 私達は早速、夕方の市街地を調査した。


♡♤♧♢


「……探偵ねぇ、告死蝶には本物の名探偵が居るけど、相変わらず彼の思考が読めないなぁ」


 秤蜘蛛は、世界を監視するサーバールームに居た。


 ここが彼の職場であり、ここが告死蝶の基地なのだが、基本的には秤蜘蛛しか居ない寂しい場所である。


 秤蜘蛛は、告死蝶No.5『重飛蝗かさねばった』との一ヶ月前の記憶を思い出していた。


♡♤♧♢


「まず前提が狂ってる」


 一ヶ月前、秤蜘蛛のサーバールームに重飛蝗がやって来た。


「狂ってるって、何がです?」


此度こたびの黒翡翠病事件、今はアメリカに患者が居るのは分かってる。だが、たった一個の石で世界が狂ったと言う130年前の事実そのものが狂っている」


「また意味不明な推理をしたのかい? 名探偵さん」


「そうだ。せつの仮説では、黒翡翠病とは、何かの積み重ねで発症した奇病だと思う。だが、その積み重ねとは何なのか分からない……我が友、秤蜘蛛。君に頼みたい事がある」


「何かな?」


「拙は、これよりイギリスに調査に向かう。この事はボスには黙っててほしい」


「はぁ、なんでイギリス?」


「……」


 秤蜘蛛は予想した。あ、コイツまた悪い癖が出るぞ。


 その予感は的中した。


「確証が出るまで答えは開示できない」


「またそれか、もうちょっと仲間を信じてほしいなー」


「ふ、これが探偵としての拙のやり方だ。基本的には三ヶ月で戻って来る。しかし、三ヶ月が過ぎても拙が戻って来なかったら……拙は死んだものと思ってくれ」


 そうして、星音には内緒で重飛蝗は一人でイギリスに行った。

 

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