第20話「頼れる男登場!」

「えー、続きまして、我が校のバンドチーム『ムーンライト』の生徒達によるバンド演奏が始まります」


 体育館には文化祭を楽しみに来た来場者達で埋め尽くされていて、壇上だんじょうには月音、美咲、他のメンバーがそれぞれの楽器を構えて、月音がマイクに向かって叫んだ。


「皆さん! 来てくれて、ありがとうございます!! 私達ムーンライトが演奏するオリジナルソングをお楽しみください!!」


 会場が歓喜の声で盛り上がる中、月音達は緊張しながら楽器を弾き始めた。


 盛り上がる観客達の中に、その男は居た。


「おぉ、アレが黒翡翠、なんと美しい、アレを手に入れれば、俺は世界を手にする事ができるのか」


 男が観客に紛れて月音に近付こうとした時だった。


「良い大人が世界征服とか恥ずかしくないの?」


 男の背後には、ゴスロリ衣装を身に纏った銀髪の少年が立っていた。


 男はゆっくり振り返ると、その少年を見ながら口を開いた。


「来ると信じてたぞ、若き蛾よ」


「アンタさぁ、まさかここに居る人達を巻き込むつもり? 今日を楽しみにしてた人達に申し訳ない気持ちなんてないの?」


「くっくっく、それを言うなら、お互い様だろ。壇上の影に貴様の配下が隠れているな? 差し詰め、私が壇上に上がった瞬間に奇襲をかけるつもりだったろう?」


 図星だった。銀髪の少年こと星音の作戦があっさり見破られた。


 壇上の影には眠葉虫が隠れている。


 こうなったらプランBで行くしかない。


「やれ、秤蜘蛛」


「待ってましたー! ついに僕の出番到来!」


 体育館の天井に張り付いてコウモリみたいにぶら下がっている謎の人物が居た。


 男には、その人物の姿がハッキリと見えた。


 蜘蛛の巣をイメージしたグレーのスーツを着こなし、両目には目隠しをした人物。


 そう、この男こそが。


 告死蝶No.2『秤蜘蛛はかりぐも』本人だ。


「まだ生きていたのか秤蜘蛛、しぶとい男だ」


「申し訳ないですが、悪い犬にはご退場願いましょうか『世界掌握網ワールドネットワーク』!!」


 秤蜘蛛が指を鳴らすと、観客達のスマホが一斉に鳴ったかと思うと、数名の観客達が男を蹴り飛ばした。


「ぬぅ!」


 そのまま畳み掛けるように観客達が月音達ではなく、一人の男を凝視した。


 まずい、ここに居たら正体がバレる。


 男は月音を襲うのを諦めて逃走した。


「ちぃ! 相変わらず姑息こそくな手段ばかり使うな秤蜘蛛!」


「あっはは! 負け犬の遠吠えにしか聞こえないですなぁ。それでは星音様、後は頼みます!」


♡♤♧♢


「はぁ、はぁ」


 改めて見ると、その男は身長が2mもある大男で、顔には十字の傷がある男だった。


「本当は秤蜘蛛の能力は使いたくなかったが、お前とは二人っきりになりたかった」


 文化祭では誰も使ってない空き教室に逃げ込んだ大男を、星音が追い詰めると、大男は不敵にも笑った。


「くっくっく、まさか、俺と一対一で挑む気ではないだろうな?」


「挑むよ。僕は、告死蝶のボスとして、お前を直接倒す」


「若気の至りか、先代の騙蛾は、こんな方法を取らなかった。秤蜘蛛に頼ってばかりでは、まだまだ先代を越えられないな」


「そうだね。でも、僕はまだ子供だからさ、秤蜘蛛のような大人の力が必要なんだ。それより、お前の部下は全員倒したぞ、残るはお前だけだ『ケルベロス』」


 ケルベロスと呼ばれた男は、コートを脱ぐと、両腕が機械になっていた。


「骸蝿にやられたせいで両腕を無くした。良かったな、骸蝿のお陰で全力の俺と戦わずに済んだのは」


御託ごたくは良いから、さっさと来いよ。僕はこの後は姉さんの演奏を聴きに行く予定なんだから」


 騙蛾とケルベロス、ボスとボスの戦いが始まった。

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