第15話「燃え盛る拳」

 蜂と聞くと、皆さんは蜂は刺してくる危険な昆虫だと認識してると思う。


 その認識は間違ってないが、蜂が人間を刺すのは彼等を刺激した時だけだ。


 蜂は大型動物に針を刺すと逆棘かえしと呼ばれる棘のせいで針が抜けなくて、無理矢理引き抜くと蜂の腹部が千切れて蜂が死亡するハイリスクな攻撃手段だ。


 とは言え、これはミツバチの話で、スズメバチなどの針には逆棘なんてないのだが。


 じゃあ、蜂って刺す以外に何をするの?


 答えは『熱』。


 大型のスズメバチを倒す為に小さなミツバチが集団で囲み蜂球ほうきゅうと言う球体となり、ミツバチ達の高熱でスズメバチを焼き殺す事で、小さなミツバチでもスズメバチに対抗できる手段を持っている。


 告死蝶No.8『灼熱蜂』の能力『灼熱燃焼バーニングエンジン』とは、自身の肉体を超高温にまで高めて高い身体能力を獲得し、1秒間に250回ものジャブを放つ事ができる。


 この250回とは、蜂が1秒間に羽を羽ばたかせる回数であり、灼熱蜂は、これらの能力から蜂のコードネームを貰った男だ。


 そして、本来なら灼熱燃焼の能力で色んな技が使えるはずだが、灼熱蜂はボクシングでしか戦わない男である。


 つまり、彼は拳以外では絶対に戦わない頑固な人物とも言える。


 それを知ってるのは目の前のジャッカルと言う傭兵だ。


 過去に灼熱蜂の最速の拳について行けず負けた苦い思い出がある。


 だが、今回は違う。


「俺は傭兵だからな、お前みたいなスポーツマンとは違うんだよ!」


 ジャッカルは左手に持っていたマチェットを灼熱蜂に投げた。


 灼熱蜂はボクシングの動きで回避したが、回避したところにジャッカルが接近していて、ジャッカルの右手に握られたマチェットが灼熱蜂の首筋に迫るが。


「シュッ!」


 灼熱蜂はマチェットの側面を殴って弾き飛ばすが、ジャッカルはマチェットで反撃するのではなく、灼熱蜂の腕に噛み付いた。


 これがジャッカルが三年間で身に付けた奥の手。


 いくら実戦経験が豊富でも灼熱蜂には勝てない。


 だから、ジャッカルの歯には毒が仕込まれていた。


 神経毒、この毒にやられたら、いくら灼熱蜂でも想像を絶する苦痛を味わって死ぬだろう。


 ジャッカルは、この毒を手に入れて耐性を身に付けて使いこなす為に努力した。


 全ては、目の前の男に勝つ為だけに。


「……なんだ、三年間で身に付けた奥の手が毒か、くだらんな」


 灼熱蜂が吐き捨てると、ジャッカルの口元が燃え始めた。


「あ、がぁ!?」


 ジャッカルは、火傷をした自分の口を抑えながら後退すると、灼熱蜂の両腕が炎に包まれていた。


「ほ、炎?」


「努力して強くなったのは、お前だけじゃないんだよジャッカル」


 三年前の灼熱蜂は炎なんて使わなかった。


 なぜ燃えている? 何が原因で燃えている?


 いや、そもそも、なんで毒が効いてないのか困惑してるジャッカルなど関係なく、灼熱蜂は炎に包まれた拳で殴り掛かった。


「ま、待てぇ!」


「待てない」


 ーー灼熱炎拳バーニングスピア!!


 灼熱蜂の炎の右ストレートがジャッカルの顔面に直撃し、ジャッカルは数メートルも吹き飛ばされて気絶した。


「じゃあなジャッカル。悪い犬は大人しくおりの中で反省してろ」


 灼熱蜂の宣言通り30秒以内で戦いは終わった。

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