第14話「変わり果てた姿」

「がおー! 食べちゃうぞー!」


「あぎゃぁぁ!? 星音、お姉ちゃんを守ってぇ!!」


 私達は隣のクラスの出し物であるオバケ屋敷に来たが、なんでこんなに気合い入れてんのぉ!?


 バイ◯ハザー◯みたいなリアルなゾンビなんて求めてないよぉ!!


 私は泣きながらオバケ屋敷を脱出したが、私はある決心をした。


「もうオバケ屋敷なんて行かない! 何がなんでも行かない!」


「えー? 楽しかったのになー、お姉ちゃんは、もう僕とオバケ屋敷行かないの?」


「星音のお願いなら行きます!!」


 私の決心がガラス並に弱い事が証明された。


「中々に楽しかったねー、眠理ちゃんはどうだった?」


『はい、美咲ちゃんの言う通り、中々に面白かったです。私は目が開かないのでリアルなゾンビ様達は見れませんでしたが、彼等がこの日の為に頑張った努力を感じました』


「へー、見えなくても分かるんだ」


 美咲が感心する中、私も同じ事を考えてしまった。


 眠理ちゃんって、本当に不思議な子だなぁ。


 最初は電動車椅子に乗って昏睡状態で現れたのはビックリしたけど、この一週間友達として過ごして分かったのは、普通の女の子なんだなと感じた。


「おや? これはこれは眠理お嬢様。ご機嫌、うるわしゅうございます」


 眠理ちゃんに話しかけて来たのは、背筋が良い老紳士だった。


 杖を使ってはいるが、杖なんてなくても歩けそうなぐらい、姿勢が良かった。


『その声は、しばですか?』


「はい、最後に会ったのは6年前でしたでしょうか? この柴が目を離してる間に、何があったのです?」


『まぁ、色々とあったのです』


 柴さんと名乗った老紳士は、私達に頭を下げた。


「皆様、私は柴と申します。かつては眠理お嬢様のお世話係りをしてた者です」


「つまり、老執事って事!? すごーい! 眠理ちゃんの実家って本当にすごいんだね!」


 私が喜んでいると、眠理ちゃんの電動車椅子が柴さんの方に向かった。


『月音ちゃん、美咲ちゃん、星音ちゃん、すみませんが、柴とお話がしたいので席を外します。終わったら戻りますので』


「良いよ良いよ、6年ぶりの再会だもんね。ゆっくりして良いよ!」


♡♤♧♢


 旧校舎、ここは文化祭では誰も使っていない無人の校舎。


 今は眠理と柴の二人っきりである。


『柴、いいえコードネーム『柴犬』今更何しに現れたのです?』


「やはり、まだ怒っているのですね」


『当たり前です。人斬りに目覚めたアナタと剣を交えて姿を消したかと思ったら、再び私の前に現れるとは、何が目的です?』


「我が主が黒翡翠を求めておられる。眠理お嬢様も告死蝶として、ここに居るのでしょう?」


『……』


「その沈黙、肯定と受け取りました。しかし、変わり果てましたな眠理様。かつては剣に愛されし者、剣に選ばれし者、若き剣聖と呼ばれたアナタ様が、今は自分で動く事もできないとは……そんな姿で、この柴犬、いや新しき名は『リカオン』に勝てると?」


『そうですか、私の知ってる柴は死んだのですね』


「左様、戦えないのならば、今ここでアナタ様を介錯かいしゃくします。それが、かつてアナタ様の才能に嫉妬して狂った者としての礼儀かと」


『……リカオンでしたか? 何を勘違いしてるのです?』


 電動車椅子からアームが出たかと思うと、そこには一振りの日本刀が握られていて、眠理がその刀を握ると、ずっと眠っていた彼女の瞳が開眼した。


「開眼『剣神同化ブレードクロス』」


 眠理は電動車椅子から自力で立ち上がって、刀を腰に差した。


「眠り姫に堕ちた身ではあるが、我が剣はまだ死んではいない」


「お、おぉ! このリカオン、アナタ様と剣を交える日が来る事を待っていた!」


 眠葉虫とリカオンの戦闘が旧校舎で始まった。

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