第13話「群れない一匹蜂」

「すぅー、ふぅー」


 月音の学校の文化祭で、無駄にイカつい男が歩いていた。


 頭はスキンヘッドで、サングラスをかけたスーツ姿の30代ぐらいの男だった。


 どう見ても、この男はヤバい事は伝わる。


 すると、教師の一人が男に怯えながら話しかけてきた。


「す、すみませんが、校内は禁煙です」


「……そうか、これは棒付きの飴だ。タバコとは5年前に失恋したばかりでな。今はコイツが俺をなぐさめてくれている。勘違いさせたなら、すまない」


「重ねてすみませんが、身分証を見せてくれませんか?」


 男はポケットから、運転免許証を見せながら教師に自己紹介した。


「安心しろ。俺はバーテンダーとして働いてる『狩野かりの 熱夜ねつや』と言う者だ。この見た目で勘違いされる事が多いが、この学校で迷惑行為はしない。娘と一緒に来たんだが、はぐれてしまってな」


「は、はぁ、狩野さんですね。娘さんをお探しなら、迷子センターに知らせましょうか?」


「そうしてくれるとありがたい。娘の名前は『斬華きりか』だ。時間を取らせて、すまなかったな。今度一杯、おごるから許してくれ」


 狩野と名乗った男が再び校内を歩き始めると、数分後に背後から声が聞こえてきた。


「久しぶりだな灼熱蜂バーニングビー


 狩野は振り返らずに、声の主の名前を言った。


「ジャッカルか。三年振りか? 何しに来た?」


「あぁ、アメリカで商売をしてたが、骸蝿デッドフライに邪魔されてな。日本に逃げて来たが……あぁ、匂うなぁ、この学校に黒翡翠の匂いがする。どこに居るのか分からないが、見つけ出してやろう」


「……俺は、基本的には同じ相手と戦わない主義だが、気が変わった。お前をノックダウンさせる」


♡♤♧♢


 狩野こと灼熱蜂は、ジャッカルと共に誰も居ない校舎の裏に来た。


「どうだ? ここなら誰にも邪魔されず遊べるだろ?」


 目の前の黒いコートに身を包んだ大柄な男とは面識がある。


 過去に灼熱蜂が倒した相手だ。


「黒翡翠の匂いに誘われて来たが、まさかお前にリベンジできるとは思わなかったよ」


「ふん、アメリカで蝿に負けた負け犬が俺に勝てると?」


「あぁ、ジャッカルは社会的な動物だ。本来は蜂も社会的な動物だが、群れからはぐれた蜂に二回も負ける気はしないな」


 ジャッカルはふところに隠していた二本のマチェットと呼ばれる中南米の山刀を両手に握ると、不適な笑みを見せた。


 そして、灼熱蜂はボクサーのような構えを取った。


「勘違いしてるようだが、群れない蜂が弱いわけないだろ」


 人が来ないとは言え、今日は文化祭。


 いずれ人が、ここに来る。その前にジャッカルを倒す。


「悪いが30秒以内に倒す『灼熱燃焼バーニングエンジン』起動!」


 灼熱蜂の体から強烈な熱気が放たれた。近くに居るだけで視界がボヤける程の熱量が発生していた。


「あーあ、相変わらず熱い男だな。その熱を見てる消し炭にしたくなるなぁ!!」


 灼熱蜂とジャッカルの戦闘が始まった。

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