第11話「眠り姫がやって来た!」

 文化祭まで、残り一週間前の出来事であった。


「はいはーい、今日から転校生が来るから、お前ら仲良くしろよー」


 担任の克奈ちゃんから転校生の話題が出てきた。


 こんな時期に転校生? どんな子だろうか?


 克奈ちゃんが教室の扉を開けると、教室に入って来たのは、電動車椅子に乗った少女だった。


 私と同じセーラー服を着ているが、髪は薄緑色のロングヘアーをした綺麗な女の子だった。


「すぅ……すぅ……」


 寝息を立てている。寝ているのか?


 少女が乗っている車椅子が低いモーター音を立てながら自力で移動した。


 最近のテクノロジーすごいなぁ。


「えーと、紹介するぞ。今日からお前達の仲間になる『西海寺さいかいじ 眠理ねむり』だ。訳あって昏睡状態ではあるが意識はあるから、積極的に会話しろよ」


 克奈ちゃんが西海寺さんの紹介をすると、彼女の車椅子から電子音声が流れた。


『皆様、こんにちは。私は西海寺と申します。こんな姿で申し訳ありませんが、皆様とは仲良くなりたい所存です』


 昏睡状態の女の子が転校して来た? 色々とツッコミどころ満載だが、あの電子音声も西海寺さんの代わりに喋ってるのだろうか?


「ん? 西海寺? もしかして、西海寺財団のお嬢様!?」


 クラスの男子が、その財団の名前を言うと、クラス全体が驚きの声に包まれた。


「西海寺財団って、世界規模で活躍してる時計メーカーじゃないか?」


「しかも高品質の時計を作る事ができる超有名企業じゃん!」


「なんで、そんなすごい所のお嬢様が、こんな学校に転校してきたんだ!?」


 おおっと、なんかやたらと高性能な電動車椅子に乗ってる理由が分かったぞ。


 どうやら、西海寺さんは、大企業のお嬢様らしい。


 昏睡状態なのは、何か理由があると思うが、意識はあるらしい。


 ……いや、なんでそんなにキャラが濃い人が、こんな学校に来たの!?


 私だけじゃなく、クラス全員の疑問を解決するかのように、西海寺さんの車椅子から、再び電子音声が流れた。


『皆様、お嬢様と言っても、見て分かる通り自分では動けない身です。皆様にご不便をお掛けしますが、何卒よろしくお願いします』


 おおふ、やはりお嬢様だからか、中々に礼儀正しい雰囲気を感じる。


 く、庶民と上級貴族の壁を感じる!


「そうだなー、んじゃ西海寺の席は水無月の隣な」


 マジか。


 私が困惑してると、電動車椅子のモーター音を響かせながら、西海寺さんは私の隣にやって来た。


 ……気まずい!


 私がお嬢様オーラに圧倒されていると、西海寺さんの方から話しかけてきた。


『水無月様で、よろしいでしょうか? 共に勉学を学ぶ仲間ができて、私は嬉しい限りです』


「え、えーと、西海寺さん? その喋り方なんか堅っ苦しくない? もっとこう、フレンドリーにできない?」


『すみません、これが私の喋り方なので。そうですね……水無月様がフレンドリーをご所望ならば、みーちゃんと呼んでも、よろしいですか?』


 一気に距離感が縮まったぁ!!


 あれか? お嬢様だから俗世にうといのか?


 私は恐る恐る尋ねた。


「あーそのー、苗字じゃなくて下の名前で呼び合うのは、どうかな? 私は月音って言うんだけど」


『まぁ、名前に月が二つもあるなんて素敵ですね! では月音ちゃん、私の事は眠理と気安くお呼びください!』


 な、なかなかユニークな子が来たな。


 私が動揺していると、後ろの席の美咲が話しかけて来た。


「なぁなぁ、西海寺さんに、ウチらのバンド演奏聞かせるのは、どうよ?」


『バンド! 聞いた事があります! あのギュイーンギュイーンと音が鳴る謎の楽器を弾くのですよね! 実は一度バンド演奏を聞いてみたかったのです!』


 クラスの話題になった西海寺さんこと、眠理ちゃんと仲良くなった私達は、彼女と共に放課後のバンド演奏の練習に観客として誘った。

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