第10話「男の娘に関する議題」

「……」


 私は、学校の授業に集中できなかった。星音とのデートが終わり、日曜日を自宅で過ごして、今は月曜日。


 星音とデートをして、私はある命題にぶつかってしまった。


「なぁ、月音。朝から難しい顔をして、どうしたよ?」


「我が同志、美咲よ。汝に聞きたい事がある」


「口調が変わるレベルの悩み事か?」


「然り」


 私は、意を決して美咲に悩みを打ち明けた。


「男の娘に胸パッドを付けるべきだろうか?」


「…………みんなーーー!! 月音が変態に進化したぁぁぁぁ!!」


「やめろぉぉ!!」


♡♤♧♢


「被告人、前へ」


「違うんです! 私は男の娘の可愛さを上げる方法を考えていたのです! 私は無実だ!」


 まさかの学級裁判が始まってしまった。


 バカな、なぜこんな事に?


 弁護士役は教師の克奈ちゃんだが、どこまで弁護してくれるのだ?


「んあー? 水無月の主張である男の娘に胸パッドを付けるべきかだっけ? まぁ良いんじゃない?」


「異議あり!」


 検事役は、まさかの親友の美咲だった。


 裏切ったな!


「克奈ちゃん、冷静に考えて欲しい。男の娘に女の子のような胸が無い事が萌えではありませんか?」


「んー、私には、よく分からんが、水無月は、まだ胸パッドを付けた男の娘を見てないんだろ? なら星音ちゃんに頼めば良いんじゃない?」


 そうだ、私はまだ見ていない。なんかこう、男の娘が頑張って女の子になろうとする努力の結果が胸パッドであって。


 私が思考を巡らせていると、傍聴席に居る生徒達から賛否両論の声が上がった。


「我らは男の娘に胸パッド付けるべき派だ!」


「否、無い方が貧乳感があって最高だ!」


 なんてこった。私の悩みがクラスの生徒達の平和を乱す結果になるなんて。


 いったい、どうすれば?


♡♤♧♢


 如月 克奈は、この茶番じみた学級裁判の中で考えていた。


(今時の若い子って、こんな事で裁判起こしちゃうのか? 怖い世の中だなぁ)


 克奈は、さっさと茶番を終わらせる為に酔蜚蠊の能力を一時的に使った。


 つまり、一瞬だけIQを300に跳ね上げる能力を使って、クラスの平和を取り戻す解決策を思い付いた。


「よーし、みんな聞いてくれ」


 クラスの生徒達の視線が克奈に集中したのを確認してから、克奈は穏やかに語った。


「大小論じてる間は男の娘愛にあらず。胸の是非にこだわるな。大切なのは、その子をでる心、さすれば男の娘も心を開くであろう」


 克奈のほとけのような説法に対して、クラスの生徒達にも克奈の思想が浸透した。


「そ、そうだよな。大切なのは、その子を大切にする事だよな」


「胸の是非で争ってたなんて、俺達は男の娘に対する愛情が歪んでたのか」


 クラスの生徒達が和解する中、月音の元に検事役だった美咲が手を差し出した。


「ごめんね。親友の悩みを否定してしまって。月音は、それだけ星音くんの事を大切にしてる証拠なんだよね。仲直りさせてほしい」


「美咲!」


 月音と美咲が厚い友情の証である握手を眺めながら、克奈は思ってしまった。


(なーにこの茶番?)


 ある意味、平和だなーと感じる日常の断片であった。

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