第8話「そして蛾は騙り続ける」

「綺麗な景色だねー」


 星音とのデートの最後は夜の街を一望できる展望台だった。


 時刻はすっかり18時となり、日の沈みは早くなっていた。


 夜の街並みが宝石のように輝いている。


 今日は色々とあったなぁ、星音とゲームセンターに行ったら克奈ちゃんとゲームができたし、公園に行ったら夢ちゃんと言う不思議な女の子にも会えたし。


 こんな平和な日々が毎日続けば良いなー。


「ねぇ、お姉ちゃん」


「ん? どうしたの?」


「お姉ちゃんはさ、虫嫌い?」


「ん〜、好きか嫌いかと言えば、まぁ嫌いかな」


「……そう、それが普通の人間の反応だよね」


 え? なんで虫が好きか嫌いかの話が出たんだ?


 しかも、なんか星音が落ち込んでるように見えるのはなぜだ?


 すると、星音の指先に一匹の小さな蛾が止まった。


「お姉ちゃんが虫が嫌いなのは、彼等の事を知らないからだよ。彼等が何者なのか知れば怖くない。人間は未知の存在に恐怖を抱く習性があるんだ。でも、人間が成長するには常に未知に挑むべきじゃない?」


「どうしたの星音? なんかいつもと雰囲気違うよ?」


 星音が指に止まっていた蛾を愛おしい目で見てから、蛾は夜空へと羽ばたいて行った。


「僕ね、本当は虫が好きなんだ。こんな事を言ったら、お姉ちゃんに嫌われると思ってた。こんな僕でも、お姉ちゃんは僕を愛してくれる?」


 虫嫌いな私と虫好きな星音か。たしかに対極の関係ではあるが、私の信念に揺らぎなし。


「モチのロン!! 私の弟は星音だけだもん! それに、お母さんとお父さんが居ないから私が全身全霊を込めて星音を養って、最終的にはウェディングドレスを着せてハッピーウェディングしてやる所存!!」


「あはは、気合い十分だね。お陰で僕も元気が出たよ」


 私の決意表明を聞いた星音は、夜の街並みをバックに笑顔で私に語りかけた。


「僕も、お姉ちゃんの弟になれて良かったな。お姉ちゃんは、そのままでいてね。お姉ちゃんには幸せになってほしいな」


 ……こ、これは、ギャルゲーで言うと告白イベントなのでは?


 良いですか、落ち着いて聞いてください(自戒)。


 私達は姉弟の関係だぞ? 今回のデートだって、あくまでも姉弟の関係としてであって、べ、別に星音の事を異性として好きとか、そんなんじゃないし!


 あれ? 待てよ。もしも星音に彼女とか彼氏できたら、私はどうなる?


「んんんん!!」


「お姉ちゃん!?」


 私は自分で自分の腹にボディブローを決めた。


 落ち着け、私が長女じゃなかったら今頃悩み死んでいた。


 星音の色恋沙汰に口出しして、どうする?


 星音を幸せにできる相手が居たら、それは嬉しいが、悪い奴に騙されたらと思うと……。


「うぇぇぇん! 星音、嫁に行かないでくれー! お姉ちゃんを一人にしないでくれー!」


「えぇ? ……まったくもう、お姉ちゃんは泣き虫だなぁ。大丈夫だよ、僕がお姉ちゃんを守り続けるから」


 とうとう涙腺崩壊した私を星音が背伸びして私の頭を撫でてくれた。


 はぁぁぁ、すこ。


 こうして、星音とのデートは幕を閉じた。

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