第2話「セーラー服はいいぞぉ!!」

「あぁぁぁぁ、女装した弟に膝枕されて耳掻きとか最高じゃぁぁぁ」


「あはは、お姉ちゃん、大袈裟だなぁ」


 大袈裟ではない。至高の芸術がここに完成した! 


 どうだ羨ましいだろう? こんな可愛い銀髪の弟がセーラー服(私のお下がり)を着て膝枕をしてくれるんだぞ?


 私のテンションは有頂天に達して天に召される寸前だったが、まだ死ぬわけにはいかない。


 あまりの快感に酔いしれた私は、耳掻きが終わった後に弟を抱きしめて匂いを嗅いだ。


 姉弟だからできる行為だ。こんな事をしたら即通報ものである。


「もう、お姉ちゃん、くすぐったいよー」


 天使⭐︎降臨!!


♡♤♧♢


『悪魔★降臨ですね! 星音様!』


「誰が悪魔だよ。はぁ、中学生が闇の組織のボスとか厨二病全開じゃん。しかも何? 僕のコードネームが『騙蛾』? なんで僕達は虫の名前で呼び合うのさ秤蜘蛛」


『ん、ふっふっふ、それは初代ボス様の趣味です。あ、なんか虫のコードネームかっこよくない? 的なノリで付けたのです』


「あっはっはっは! ご先祖様が居たら、ぶん殴りたいや! さて、茶番はここまでだ秤蜘蛛」


 僕の名前は水無月 星音。表向きは女装趣味に目覚めた中学生だが、裏の顔は、国連が正式に認めた秘密組織『告死蝶こくしちょう』のボスである。


 主な活動内容は、僕の姉さんである月音姉さんが発症した黒翡翠病と呼ばれる奇病の患者を最優先で保護し、影から支援する組織である。


 黒翡翠病、今から130年前に発見された奇病で、心臓に黒翡翠のような石ができると言う異常な病気である。


 最初は、戦時中の兵士の中から黒翡翠のような石が出てきて、それを加工した結果。


 当時の裏社会の人間達の狂気を増幅させて、たった一個の石ごときで全世界の裏社会が混沌の渦に巻き込まれた危険な石である。


 これは教科書には載らない闇の歴史。この事態を重く受け止めた国連は、正式にこの病気の正体を探ることにした。


 が、告死蝶が設立されてからの100年間で、たった一人しか見つからなかった。


 その一人とはアメリカのミシガン州に住んでる普通の少女だが、現在は配下の骸蝿むくろばえ魂蛍たまぼたる哲百足てつむかでが共同で保護と研究をしている。


 しかし、第二の患者である月音姉さんが現れた事で事態は急変した。


「秤蜘蛛、姉さんの情報は外部に漏れてないな?」


『はい、この秤蜘蛛が、そのようなミスはいたしません。未だに黒翡翠病患者を殺害し、その心臓にある石を手に入れたら世界を支配できると勘違いした狂った人達が居ますので』


 そう、黒翡翠病の厄介なのは、当事者に自覚症状がない事、心臓に石ができると言う異常な状態なのに健康面で問題が無く、一般的な健康診断では発見するのが困難な事。


 次に、心臓にできた石を無理に取り除こうとすると患者の生命に危険があるとして、我々が取れる行動は、まだ謎が多すぎる、この病気の研究と治療方法を見つける事。


 そして、当事者に黒翡翠病の事は教えない事。


「引き続き、僕は姉さんのサポートにあたる。秤蜘蛛は、この事を他のメンバーに伝えてくれ」


『了解です〜。それでは通話を切りますね〜』


 こうして、秤蜘蛛とのテレビ通話を切った後、僕は背伸びした。


「ふぁぁ、疲れるなぁ。姉さんを危険な目に晒さない為とは言え、正体を隠し続けるのかぁ」


 姉さんは何も知らない。そう、何も知らない方が幸せだ。姉さんの人生は僕が守る、僕は、その為に生まれてきたのだから。


♡♤♧♢


「美咲、セーラー服って良くない?」


 私は学校でいつものように親友の美咲に弟の自慢をしていた。


「は? どうした月音? 私達毎日着てるじゃん」


「ちっ、ちっ、ちっ、分かってないなぁ、私達女の子が着るのではない。男の娘が着るセーラー服とか萌えの塊じゃない!?」


「ほーん、星音くんが、今度はセーラー服を着たわけね」


 さすがは我が友人、察しが良い。


「てかさー、そろそろ写真じゃなくて生の星音くんを見たいんだけど?」


「なにぃ!? 私から星音を奪う気か!」


「なんだその過激思想! てか、月音ってさぁ、本当に病気なの? バンドも普通にできるし」


「さぁ? 何の病気かは知らないけど、まーいいじゃん! お医者さんも大丈夫って言ってたし……あ、そーだ!」


 私はある事を閃いた。


「明日、星音とデートしてくる!」


「お、おう、まぁ邪魔はしないが、マジで無理しないでくれよな?」

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