私の女装した弟が可愛いすぎる!!

心之助(修行中)

第1話「女装は良い物だ」

 私、水無月 月音つきねは不治の病になった。16歳の高校一年生の秋にだ。


 なんでも、一億人に一人はかかる奇病らしいが、別に生活に支障が無く、普通に暮らせる。


 命に別条はないらしい。


 それ以降か、弟の星音ほしねが変わったのは。


「見て見てお姉ちゃーん! 今日はゴスロリにチャレンジしたよー!」


元から明るい性格だった星音が女装に目覚めた。


 正直に言おう、グレート!!


 星音は童顔で、私と一歳差なのに可愛い。この子マジで男の子か? と、疑うレベルだ。


 髪は銀髪で、ツンツンとした癖毛が目立つが、あえてそのままでゴスロリに挑んだ根性、見事としか言えない。


「ねぇ、お姉ちゃん、感想とかないの?」


「ご飯三杯いけます」


「つまり、可愛いって事だよね? やったー! お姉ちゃんもゴスロリ着ようよー、僕、お揃いが良いなー」


「任された」


完全に弟の忠実なしもべのような感じだが、悪くない、良いセンスだ。


♡♤♧♢


「月音、今日もバンドやるんでしょ? てか、病気って聞いたけど大丈夫?」


「うん、なんか命に別条はなくて、逆に治療するのは危険だと言われた」


「はぁ? そんな状態でバンドやるの? 練習中に発作で死ぬとかやめてよね?」


「あはは、ないない、全然苦しくもないし」


 学校で親友でありバンド仲間の美咲と和気あいあいな雑談をしていた。


 本当に苦しくない、医者は病名すら教えてくれなかったけど、何の病気だろう?


「あ、そうそう、うちの弟が女装始めたんだよ。これがまた可愛くてねぇ、デュフフ」


「あー、月音ってブラコンだったな。てか女装? 星音くんが? 写真あるなら見せてよ」


「はい、これ」


「どれどれ……んぁぁぁぁ!! 可愛い!!」


ふふふ、こうやって我が弟の可愛さを布教してやろう。


♡♤♧♢


「ふぃー、やっぱりバンド楽しいー、次の文化祭までには完璧にしたいなー」


 バンドの練習に熱中していて、気が付いたら夜になっていた。


 私は学校から出て満月を見上げながら考えていた。


 結局、自分の病気とは何だったのだろう?


 それより、早く帰って星音の女装姿を見たい! 疲れた心と肉体には可愛い成分が必要なのだ!


 帰り道をスキップしながら歩いていると、急に目の前が真っ暗になった。


「え?」

 

 何かで殴られた感触だけが残っていた。


♡♤♧♢


「ひゅー! JKゲットぉぉぉ!!」


 一台の大型車が住宅街を駆け抜ける。男達は、車の後ろで気絶している月音を見ながらよだれを垂らしていた。


「この子、香蓮かれん高校の子でしょ? 夜道に一人で歩くなんて不用心だよなぁ」


「あぁ、今はぐっすり寝てるが、起きたらどんな反応するか楽しみだな」


「我が世の春がキタァァァァ!! もう非モテなんてバカにされないぞぉ!」


「いやいや、こうやって誘拐してる時点で俺達、完全に犯罪者じゃん。あーでも、こう悪い事をしてるのって、なんか最高だよなぁ!!」


 男達は、月音が通う高校の近くにある大学の大学生グループだった。


 全員で五人。成績が悪くて非モテだと周囲にバカにされ続けた結果、誘拐と言う犯行に及んでしまったのだ。


 男達が馬鹿騒ぎしても月音は、ぐっすりと寝ていた。


 いや、完全に熟睡していた。


「むにゃむにゃ、星音のスカートをめくりたい」


 その寝言を聞いた男達の反応は。


「あれ? 星音って誰か知らないけど、もしかしてこの子……」


「俺達以上の変態かもしれん! くっ、こうなったら同盟を結ぶしかないか!」


 そんなアホな事を言っていると、車が急停止した。


「うお、びっくりした! なんで急に止まるんだよ!」


「いや、車道に女の子が立ってる」


 運転手の男が指を指すと、車道にはゴスロリ衣装を着た中学生ぐらいの小柄な女の子が立っていた。


 男達は何度もクラクションを鳴らしたが、目の前の女の子は退く気配が無い。


 焦ったくなった男達は車から降りて、女の子に近付いた。


「ダメだよ君ぃ、車道に立ったら轢いちゃうかもしれないでしょ? ほら、どいたどいた!」


 目の前のゴスロリ少女は、鋭い眼光で男達を睨みながら静かに言った。


「その車の中に女の人居る? その人、僕の姉なんだけど」


「え? なんで知って……ごふっ!?」


 すると、男の一人が膝から崩れて気絶した。


 何が起こったのか分からない男達に、少女は次々と襲い掛かる。


 動揺する男達など無視して、少女は、その華奢な体格からは信じられない身体能力で、的確に急所を狙って、次々と男達を気絶させた。


「え、ちょ、なにこれ?」


 目の前で仲間が四人倒されて、一人になった男は恐怖に怯えていた。


「ねぇ、君達、自分達が何をしたか分かってるかな? 自分達が漫画の悪党にでもなった気分にでもなった? 本物の真の悪が何なのか知らないようだね?」


「な、なんだよ。なんなんだよ、お前!」


「僕の名前は水無月 星音。裏の世界では『騙蛾かたりが』のコードネームを持っている。この事は、姉ですら知らない事だけどね」


 目の前の少女からは信じられない気迫を感じて、男は完全に戦意を喪失した。


 男からしたら、目の前に居る少女の姿そのものが偽物で、その小さな体には男が今まで見た事もない巨悪が潜んでいる事を察した。


「ご、ごごご、ごめんなさい!! アナタの姉だなんて知らなかったんです! どうか、命だけは!!」


「……ぷっ、アハハ、流石にそこまでしないよ〜裏の世界と言っても国連が決めた秘密組織のボスに過ぎないし〜。それに、騙蛾に遭遇した時点でタダで帰れると思ってる、その能天気な頭を叩き割りたい気分だけど、今回は見逃してあげるね。あ、ただし」


 と言って、星音と名乗った少女の蹴りが男の顔面のすぐ横の壁を粉砕し、星音は笑顔のまま男に言った。


「次は命が無いから、もう二度と悪い事しちゃダメだぞ?」


「は、はいいいいい!!」


 男が逃げ去ったのを見送ってから、星音はスマホを取り出して、とある人物に連絡した。


「君の情報網のお陰だよ。ありがとう秤蜘蛛はかりぐも


『いやー、危ないところでしたね〜。月音様が誘拐されたら、この秤蜘蛛、涙が止まらなくなるところでしたよ〜』


「君に目は無いだろ? さて、姉さんが一億人に一人発症する伝説の奇病『黒翡翠病くろひすいびょう』を発症した。これより、我ら国連が決めた秘密組織『告死蝶こくしちょう』の活動を本格化する。この事は、当事者である姉さんには絶対にバレてはダメだ。ミスるなよ秤蜘蛛」


『了解です〜星音様、いえ騙蛾様の今後の活躍を、我々は全力でサポートします』


♡♤♧♢


「むにゃむにゃ……おや? この柔らかい感触は?」


「あれれ〜? お姉ちゃん起きちゃった?」


 私が目を覚ますと、私は自宅のソファで、星音の柔らかい太腿の上で寝ていた。


 ……最高のシチュエーションかよぉ!!


 あれ? でも待てよ。


「ねぇ、私いつ帰ったっけ?」


「え〜? そんな事も忘れたの〜? 一緒にテレビ見てたらお姉ちゃんが寝ちゃったんだよ? よっぽど疲れてたんだね」


「う、うん? そうだっけ……まぁいいや! それより晩御飯作らなきゃ!」


 私は起き上がって、晩御飯の支度を始めた。


 それにしても、やっぱ女装した我が弟の膝枕最高だったなぁ!!


 何度も言おう、私の女装した弟が可愛すぎる!!

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