世の常、人の常

 結局、南洲隆也は戻って来なかった。

 遠藤が自首してきたという連絡を受け、「武蔵野署に戻って、やつの証言を一言一句、聞き漏らさずに書き留めておけ。そして、明日、教えてくれ」と宮川は祓川に追い返された。

「遠藤に張り付いていろ」と言われたが、新米刑事に毛が生えた程度の宮川に出来る訳などない。ただ、遠藤の証言は全て記録することができた。出頭して来たのは良いが、遠藤は会社に行ったことを認めただけで、後は黙秘を続けているからだ。遠藤が話したことは多くなかった。

 取り調べの音声データから証言を書き起こしておいた。

 翌日、青梅署に行くと、早速、祓川から「遠藤の証言を詳しく教えてくれ。やつは何と言っていた?」と聞かれた。宮川は「そうおっしゃると思っていました~」と喜色満面で遠藤の証言を書き起こしておいたメモを手渡した。

「うむ」祓川は無言で受け取ると、メモに目を通して言った。「これだけか? 一言一句、聞き漏らさずに書き留めておけと言ったはずだ」

「祓川さん。南洲守弘の殺害に関して、遠藤は黙秘を続けています。やつが証言したのは、これで全部なのです」

「なるほど~なるほど~自首して来ておいて、犯行を認めていない訳だな」

「そうです。何が目的なのでしょう?」

「そんなこと、はっきりしている。やつはヤクザ仲間から追われていた。逃げ場が無くなって、警察に逃げ込んできたのだ。警察にいれば安全だと、保護してもらうつもりなのだろう。だが、あいつの罪と言えば、南洲守弘殺害を除けば、浅田に怪我を負わせたことくらいだ。だが、これは浅田が被害届を提出していないので、刑事事件にはならない。だから、南洲守弘殺害を匂わせて、拘置所に居座るつもりなのだ」

「犯行を自供した方が手っ取り早くないですか?」

「ふん。追手から逃れる為に警察に逃げ込んだだけだ。殺人の罪を被るとなると、割に合わないとでも思っているのだろう」

「祓川さんは、遠藤は犯人ではないと考えているのですか?」

 祓川はそれには答えずに、「お前、この遠藤の証言を聞いたんだろう?」と証言メモを宮川に振って見せた。

「はい。聞きました」

「だったら、やつが犯人ではないことは明白だ。やつはこう証言している。南洲氏は両手で首を絞めて殺された――と。だが、検死で、南洲氏は細い紐状の凶器で絞殺されたことが分かっている。南洲社長が絞殺されたことは知っていても、凶器が何なのか知らなかったということだ」

「ああ~」と宮川は感嘆した。口は悪いが優秀だ。「すると、やはり石川が怪しいのでしょうか? 南洲社長を殺したのは石川なのでしょうか?」

 また祓川は宮川の質問を無視して、「あいつ、南洲隆也がいないことを知っていた」と言った。

「え、南洲隆也がいないことを知っていた? どういうことですか?」

「言葉通りの意味だ。石川は、南洲隆也がいないことを知っていて、屋敷で俺たちを待ち伏せしていた」

「すいません。まだ分かりません。それがどういう意味を持つのでしょうか? 南洲隆也はどこに行ったのでしょうか?」

「だから、それを調べるのだ」祓川が立ち上がる。

 今日も宮川がハンドルを握る。南洲家に向かうのかと思ったが、行き先は都内だと言う。具体的な行き先は指示せずに、「考えがあるので、都内に向かって走ってくれ」と言う。その内、何処かに電話を掛け始めた。どうやら、かつての刑事仲間と連絡を取っているようだ。

 電話が終わってから、「渋谷に向かってくれ」と祓川が指示した。漏れ聞こえた会話の内容から、誰かに会うらしい。

 駐車場に車を停め、向かった先は男二人で入るには気恥ずかしくなるような洒落た喫茶店だった。入口に椅子が並んでいる。週末になると、行列ができるのだろう。入口の傍に黒塗りの高級車が違法駐車してあった。

 祓川がじろりとそれを睨む。

 平日の昼間とあって、直ぐに店内に通された。店内はほぼ満員だった。

「あそこだ」祓川がずんずん歩いて行く。見ると、男が一人、四人掛けのテーブルに腰を掛けている。かなりの年配だ。頭が綺麗に禿げあがり、両サイドに残った髪の毛は真っ白だ。男が「おう」と祓川に手を上げた。

 周りは若い女性だらけだ。宮川は小さくなりながら祓川の後を追った。

「お先に頂いているよ」と言った男の前に、コーヒーと食べかけのケーキが置いてあった。丸顔で目が小さい。小さな目の下には小ぶりで丸い鼻がついており、おにぎりに目鼻をつけたような顔だ。

「お久しぶりです。金森さん」と祓川が丁寧に挨拶した。珍しい。そして、「こちらは宮川。宮川、こちらは金森さんだ」と男を紹介してくれた。

「武蔵野署の宮川です」と宮川も丁寧に挨拶した。すると、「こんなところで、署の名前を出すな!」と祓川に怒られてしまった。

「はは。ちと無粋だが、まあ良い。宮川君とか言ったね。ここのケーキが美味しいんだよ。君もどうだ?」と金森が祓川をなだめてくれた。

「ああ、はい。頂きます」と答えると、「おっ! 君も甘党かね。気が合いそうだ」と金森が喜んだ。

「私はコーヒーだけで結構です。宮川、頼む」と祓川が言う。どうやら、甘いものが苦手なようだ。

 宮川が立ち上がって、コーヒー二つとケーキを注文した。

 宮川が席に戻ると、金森が尋ねた。「さて、私に頼みがあるとか。何ですかな?」

「遠藤のことです。遠藤康臣、ご存じですよね?」

「ああ、知っている」

「当然、浅田の件もご存じですね?」

「浅田のやつ、見つけ次第、セメント詰めにして海に沈めてやると息巻いているそうだ。おっと、こんなところでする話じゃなかったな。はは」

 好々爺といった風貌だが、金森はどうやらその筋の人間のようだ。

 宮川が注文したコーヒーとケーキが運ばれてきた。

 店員が立ち去るのを待って、祓川が言う。「浅田に話が出来るのは金森さんしかいないと聞きました。遠藤との仲を取り持ってもらえませんか?」

 その筋で、金森はかなりの大物だと言うことだ。祓川さんと一体、どういう関係があるのだろかと宮川は訝しんでいるようだった。

「うん? なんで、あんたがヤクザもんの肩を持つ?」

「遠藤のやつ、浅田が怖くて警察に逃げ込んできました」と祓川が言うと、金森が「だな」と返事をした。遠藤が自首したことを知っているのだ。「浅田が怖くて逃げ込んで来たのは良いのですが、黙秘を続けています。あいつ、何もやっていないはずです。話すことがない。だから黙秘をしている」

「なるほど。遠藤の口を割らせる為に、浅田との和解が必要な訳だ」

「ご賢察の通りです。やつに何もやっていないことを自白させたいのです」

「分かった。ここに来るまでに、浅田についてちょっと調べておいた。遠藤の生い立ちを考えれば、浅田のやつ、少々、無神経過ぎたようだ。あいつも悪い。遠藤は少々、痛い目に遭うだろうが、命までは取らない――ってことで良いなら、仲を取り持ってやっても良い」

「助かります」

「なあに。お安いご用さ。借りたものは返さなければならない。それが世の常、人の常よ。息子の件では世話になったからな。お前さん、あの後、本庁から青梅署に飛ばされたって聞いた。悪いことをしたと思っているんだ。これで、少しは借りが返せる」

「私は自分の仕事をしたまでです」

「まあ、良いさ。連絡をもらって嬉しかったよ。で、話がついたらどうする」

 祓川は浅田の口から「遠藤のことを許す」という連絡が欲しいと頼んだ。音声データを遠藤に聞かせて、口を割らせるのだ。

「分かった。じゃあ、お先にな。ここは俺のおごりだ、お代は払っておくよ」と金森が言うと、「いえ、国家公務員ですので、ご馳走になる訳には行きません!」と祓川が断固、断った。

「はは。相変わらず固いね~分かった。じゃあな。また何かあれば連絡してくれ」

 金森は喫茶店を後にすると、入り口に違法駐車してあった黒塗りの高級車へと歩いて行くった。ガタイが良く、人相の悪いボディーガード風の若い男が車から出て来て、うやうやしくドアを開けた。

「祓川さん。あの人、誰ですか?」金森を見送ってから、宮川が尋ねた。

「金森組の組長だ」

「ヤクザの親分なのですね。祓川さんとどういう関係なのですか? 息子さんのことで、世話になったと言っていましたけど」刑事がヤクザと親しいとなると問題だ。

「やつの息子の無実を証明してやっただけだ」

 祓川が多くを語らないので、想像で補うしかない。金森の息子は堅気の人間だが、ある殺人事件の容疑者となった。親が親だ。息子の犯行――ということで、捜査が進んでいた。それに祓川が異を唱え、息子の無実を証明した。その際、左遷の原因となった、上司との衝突があったのだろう。

 組織対策部にいるかつての同僚に連絡を取り、浅田と遠藤の間を取り持つことができる人間がいないか尋ねたところ、金森の名前が出た。金森なら、祓川の依頼を断ること訳がない――ということになって、かつての同僚が金森と連絡を取ったところ、会って話をしたいと言われ、喫茶店を指定された。ざっとそういうところだろう。

「音声データを手に入れたら、お前に転送する。それを、お前が遠藤に聞かせて、やつの口を割らせるのだ」と祓川は言った。


「折角、都内まで出て来たのだ。石川健文の身辺調査に向かうぞ」と祓川が言い出した。

「身辺調査って、何処に行くのです? 南洲守弘が殺された会社ですか?」

「あそこは、お前らが調べ尽くした後だ。何も出ない。石川が働いていたという横浜の会社を訪ねてみよう」

 祓川がコーヒーカップを置いて立ち上がった。

「分かりました」

 金森が言った通り、美味しいケーキだった。宮川はテーブルの上の食べかけのケーキを慌ててほおばった。

 祓川と宮川はナノエレを訪ねた。石川健文が以前、勤めていた会社だ。大学を卒業してから、ナノエレに就職して働いていたが、先月、突然、会社を辞めている。

 青を基調とした洒落た外観の五階建てのビルだ。入口にR&Dセンターという文字があった。ナノエレの研究開発所だ。

 受付で案内を請うと、八重歯の可愛い女性が「人事課長の広江が間もなく降りて参ります。そちらでお掛けになってお待ちください」とロビーに設けられたミーティング・コーナーに案内された。

 程なく、面長で鼻の長い顔をした中年の男性がやって来て、「人事部の広江です」と二人に挨拶をした。

「何でも、石川君のことを聞きたいとか? 彼が何かしたのですか? 彼はうちを辞めた人間です。うちとはもう関係ありません」

 広江は石川が何か悪事を働いて、会社の名前が出るのを心配している様子だ。

「ある事件の関係者の一人だと言うだけです。お宅の名前が出ることのないように配慮します。彼の入社の経緯や、どういった人物だったのか等、教えてもらえませんか?」祓川が如才なく頼む。時に、妙に世間慣れした面を見せる。

「そうですか。お願いします。石川君ですね。ああ、彼、招知大学の学生で、鷲尾先生の紹介で採用しました。毎年、鷲尾先生のゼミから、何名か、新入社員を雇っています」

 招知大学は都心にキャンパスを置くマンモス私立大学だ。

「どういったゼミなのですか?」

「うちは透明電動膜がメインの商品の会社で、その研究室として有名なのが招知大学の鷲尾ゼミです。ゼミ生はここ、R&Dセンターの即戦力になります。石川君もそういった一人でした」

「ほう。期待されていた訳ですね。それで、何故、辞めたのですか? 会社で何かあったのですか?」

「いいえ。何もありません。突然、辞めると言われて、こちらも驚きました。どこか大手の引き抜きにあったのかと思いました。そこで、彼に聞いてみたら、引き抜きではなく、次の就職先は決まっていないと言うので、もう少し働いてみないかと説得したのですが、彼の意思が固くて、引き留めることができませんでした」

「なるほど~なるほど~次の仕事が決まっていないのに、会社を辞めた訳ですね?」

「はい。まあ、彼がそう言っただけですけど」

「なるほど~なるほど~で、会社での彼はどうでしたか? 何か問題を起こしたりしていませんでしたか? 仕事は真面目にやっていましたか?」

「非常に優秀な社員でしたよ。特にこれといった問題も起こしていません。多少、遅刻が多かったようですが、研究開発部の人間は皆、そうですからね。夜、遅くまで仕事をしていますから、遅刻が多くなってしまいます」

「なるほど~なるほど~彼と個人的に親しかった人はいませんか? その人から、お話をお聞きしたいのですが」

「ああ、はい。研究開発部に行って、聞いてみましょう。少々、お待ち頂けますか?」

 広江は事情聴取から解放されて、ほっとした様子で、挨拶もそこそこに戻って行った。

「どういうことなのでしょうか? 何故、急に会社を辞めたのでしょうね」宮川が尋ねると、祓川は「良い金蔓を見つけたからだろう。地道に働くより、金もうけが出来ると考えたからだ。それで、仕事を辞めた」と答えた。

「金・・・ですか・・・」

「金だな。あの男を動かしているのは、金と見栄だよ」

「祓川さんは石川に対して厳しいですね」

「厳しい? 分かってないな。これは俺なりのプロファイリングだ。事件関係者を観察し、プロファイリングする。そうすることで、浮かび上がって来る犯人像と合致する人物を探し当てる。そうやって犯人を特定するのだ」

 プロファイリングと言うが、祓川の直感に過ぎない。

「あの~すいません。広江課長に言われて来ました」と一人の若者が、おずおずと会話に割り込んできた。「中田と言います」と若者が名乗った。

 研究開発部で石川と一緒に働いていた同期だと言う。痩せていて鉛筆のように細い。狐顔で、出っ歯ではないが大きな口がせり出して見える。

「石川健文さんと仲が良かったのですか?」

「ええ、まあ。大学で同じ研究室で、同期入社でしたから。仲が良い――と言うより、長い付き合いと言った方が正しいかもしれません」

 腐れ縁だと言いたげだ。

「大学で同じ研究室だったと言うことは、鷲尾ゼミで一緒だったということですね?」

「おやっ――⁉ 刑事さん、我が鷲尾ゼミをご存じですか?」中田が嬉しそうに言う。

 祓川は「先ほど、広江さんから伺ったばかりです」と冷たく突き放す。「石川さんは、どういった人ですか?」

「石川ですか? 見ての通りです。明るくて、男前で、誰からも好かれるやつです」

「誰からも好かれる人物には見えませんでしたけど」

「はは」と中田は軽く微笑んだ後で、「まあ、そうですね。誰からも好かれるというのは、言い過ぎだったかもしれません。彼ね。大学に入学してから、直ぐにお父さんを亡くしていて、ああ見えて結構、苦労をして大学を卒業したんです。そうじゃなかったら、あいつのことです。芸能界とか、そういった派手な世界を目指していたと思いますよ」

「なるほど~なるほど~苦学生なのですね?」

「学生時代はバイトばかりしていました。学費に家賃、生活費まで、全てアルバイトで稼いでいました。実家のお母さんの生活費まで、稼いでいたんじゃないかな? ああ見えて、苦労人なんです。まあ、お母さんも、彼が就職して直ぐに亡くなりましたけど」

「ところで中田さん。遠藤康臣という人物をご存じありませんか? ちょっと古い写真ですが」そう言って、祓川は携帯電話に保存しておいた遠藤の顔写真を見せた。

「遠藤康臣?」と顔写真を見た中田は、「ああ~この人。ええ、知っています。名前は初めて知りましたけど、会ったことがあります」と答えた。

「ほう~会ったことがあるのですね。何時、何処で会ったのですか?」

「会ったというより、見ただけですけど。怖い顔でしたから、忘れられません。ヤクザみたいだなあ~と思ったので、覚えていました。この人を見たのは・・・ええっと・・・そんなに前じゃありませんよ。二週間くらい前ですかねえ・・・石川と一緒にいるところを見ました」

「石川健文と一緒にいたのですか⁉」祓川が大声を出したものだから、「は、はい!」と中田は椅子から飛び上がった。

「何処で見たのですか?」

「ああ、それが――」と中田は会社近くにある一軒のレストランの名前を教えてくれた。「会社を辞めたと言っても、彼、この近くに住んでいますし、行きつけの店は変わりませんからね。会社を辞めた後も、そのレストランでちょくちょく顔を見ました」

「ああ、話の腰を折って、すいません。石川健文は奥多摩に住んでいるようですが」

「奥多摩⁉ そうなんですか? 彼、近所のアパートに今でもいるものだと思っていました」

「そうですか。すいません。で、石川健文が男と会っていた時の話を続けて下さい」

「はい。二週間くらい前だったと思いますが、行きつけの居酒屋にいました。彼、もてますから、女性と一緒なのは珍しくありませんが、この時は珍しく、相手は男でした。しかも、連れの顔を見て、随分、人相の悪いやつと一緒にいるなあ~と思いました」

「どんな話をしていたのでしょうか?」

「さあ? 額を寄せて、ひそひそと話をしていましたので話の内容までは分かりません。随分、込み入った話をしていたようでした。まあ、彼が会社を辞めてからは、近所で会っても、こちらから声をかけることがなくなりました。彼のことです。次の仕事が決まったり、何か良いことでもあったりしたら、彼の方から声をかけて来るでしょうからね」

「なるほど~なるほど~とにかく、彼は遠藤康臣と一緒にいた訳ですね。ところで、先ほど、女性と一緒なのは珍しくなかったとおっしゃいましたが、石川健文はよく女性と一緒にいたのですか?」

「ええ、まあ。彼、独身ですから、毎回、違う女性と会っていても、とやかく言われる筋合いはないのでしょうけど、何度か女性と一緒なのを見ました。彼、もてますからねえ~一度なんか、会社の子と一緒でした。『そんなんじゃない。相談に乗っていただけだ』って言っていましたけどね。訳ありの女性を連れていたこともありました。それを冷やかしたら、『そんなんじゃない。親戚だ』と言い訳していました」

「訳ありの女性? どういう女性ですか?」

「へへ。僕、見ちゃったんです。女性の左手の薬指に結婚指輪があったのを。どうです? 訳ありの女性でしょう? 人目を忍ぶ関係だったのかもしれません」

「石川健文は不倫をしていたということでしょうか?」

「分かりません。先ほども言った通り、彼、親戚だと否定していましたから」

「何時頃ですか?」

「さあ~何時でしたっけ・・・ひと月くらい前だったと思います」

 ふと思いついて、祓川は「この女性ですか?」と携帯電話に保存してあった写真を見せた。石川に頼んで和美から取り寄せてもらった南洲則天の写真だった。

「ああ~ええ、この女性だったような気がします。うん、間違いない」と中田が答えた。

 石川が密会していた女性は南洲則天だった。そして、二週間前には、遠藤康臣とも会っていた。石川と則天はどんな関係だったのか。遠藤と会っていたことを、何故、黙っていたのか。宮川も石川に対する容疑を深めた。

「どうもありがとうございます」中田からの事情聴取を終えてから、石川が住んでいるというアパートに回ってみた。

 独身男性が好みそうな、出入りが自由なアパートだった。大家に確認を取ったところ、入居者の名前は石川健文のままだった。

 石川が遠藤と会っていたという居酒屋にも行ってみた。店員は石川のことを覚えていたが、遠藤の顔は覚えていなかった。

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