第1話

ロート・ドライツェーン


エルドラード帝国の南方にある辺境都市グラーヘン出身の下級市民。両親は先の大戦の戦火により亡くなった。今は年の離れた妹と2人で暮らしている親戚の叔父が営む自動車工場で働いていたが、不景気により廃業となってしまった。


それから各地を転々として、日雇いの仕事をしつつ、定職を求めて帝国中をさまよっていた。体が弱い妹に流浪の旅は辛いものだったが、妹は文句のひとつも言わず、黙って着いてきてくれる。


そんな妹のためにも早く安定した仕事を見つけなくては焦っていた時、転機が訪れた。


ドンドンドン!!


誰かがドアを力強くノックしていた。ベッドから転げ落ちながら飛び起きると、慌てて玄関に走る。ドアスコープから外を覗くと、風貌の悪い男が立っていた。街中で絶対会いたくない男がこんな朝早くから何の用があるのかと訝しむ。


「早くドアを開けろ!俺は気が短いんだ!3秒数えるうちに開けないと、このドアを銃で吹っ飛ばすぞ!!」


慌ててドアを開けると銃口をこちらに向けたガラの悪い男が立っていた。


「危ないところだったな。あと3秒遅かったら、お前の土手っ腹に風穴開けるところだったぜ」

「ハ、ハハハ……」


乾いた笑いしか出なかった。こういう輩に冗談は通じない。この男は本当に3秒後には引き金を引いていただろう。


「ロート・ドライツェーンだな?」

「は、はい。そうですけど…」

「お前宛に手紙だ。女王陛下から手紙がくるなんて青天の霹靂だな」

「ええッ!!じ、女王陛下から!?な、なんで僕に!?」

「さぁな?…女王陛下はしっかりと国民のことを想っていらっしゃるのさ。きっとお茶会への招待状に違いない」

「…中見たんですか?」


さっきまでヘラヘラ笑っていた男が急に真面目な顔になる。


「見るわけねぇだろ。女王陛下の手紙だぞ?持ってるだけでも嫌なのに…。とにかく渡したからな!」


男はそう言うと足早に去っていった。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「…エリカ。帝都に行くぞ」

「ていと?…なんで?」


エリカが不安そうに聞いてくる。


「女王陛下に会いに行かないといけないんだ」

「じょうおうへいか?…えらい人?」

「そうだ。この国で一番偉い御方だ。今日中にこの街とおさらばして帝都に行く。エリカには辛い思いばかりさせていたが、もう心配はいらないぞ。これからは毎日暖かいご飯が食べれるぞ!」


妹の顔がパッと明るくなる。


「ほんとに!?やったー!!お兄ちゃん大好き!!」

「ハハッ!!俺もだよエリカ!」


妹の小さな体を優しく抱きしめる。折れそうなほど貧相な体。妹のためにも絶対にこのチャンスを逃すわけにはいかない。荷物をまとめて昼には街を出た。なけなしの蓄えをはたいて、帝都行きの列車に乗り込む。初めての列車に妹は終始ご機嫌だった。駅に着く頃にはすっかり日が傾いていた。


「お待ちしておりました。ロート様、エリカ様」


帝都の駅に着くと見知らぬ男が出迎えてくれた。なぜか自分の名前だけでなく妹の名前も把握していた。


「初めまして。わたくし女王陛下より、お二人のお世話をするよう申しつかったシュグライム・アルバートと申します。以後お見知りおきを」


金髪の執事ことシュグライムはペコリとお辞儀をすると、ニコリと笑った。



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虚構の玉座 ドングリノセクラベ @karakasamazin

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