虚構の玉座

ドングリノセクラベ

プロローグ

*―—―*―—―*


おめでとう。


君は1億人の中から選ばれた唯一無二の存在だ。


君に与えられた仕事はただ一つ。


我が国の国家元首たる女王陛下に謁見えっけんする者の価値を見定めること。


以上


*―—―*―—―*




★2024年6月1日★

★エルドラード帝国/帝都—ブラックヘルツ/ゲヒルン宮殿★


荘厳にして壮観。この国の栄華と繁栄が詰め込まれた政府の中枢。


「ここに入ることを許されているのは、貴様が審問官に選ばれたからに他ならない。そのことを努々忘れるでないぞ?」

「もちろんです。グランツ将軍閣下」


目の前には数え切れないほどの勲章をジャラジャラと軍服に身につけている帝国軍最高司令官であるグランツ・バリオード。二つの意味でキレ者である彼とは、あまり顔を合わせたくない。


「この扉の先に女王陛下がいらっしゃる。くれぐれも失礼のないようにな」


ギロリとグランツ将軍に睨まれる。さながら獲物を狙う猛獣のような風貌だ。首が折れるほど、深く頭を下げて、重厚すぎる扉をくぐる。


中には何もなかった。ただ真っ黒な闇だった。


「あ、あの…女王陛下…?ど、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」


恐る恐る暗闇に向かって呼びかける。


「……此度は随分と遅かったではないか」


姿は見えないが、部屋の奥から女性の声が聞こえてきた。


「も、も、も、も…申し訳ございません!!!!!!」

「余はこの日のために、何日もモノを口にしていないのだ…」

「え、あの……」


不穏なことを口走る女王にぎょっとする。


「可食部が少ないのがやや不満だが、久しぶりの御馳走ごちそうにケチをつけるものではないか……」


マズイ。なんということだ。女王は人間を食べる怪物だったとは・・・。


「あ、あの…女王陛下…よろしいでしょうか?」

「なんだ?遺言なら聞いてやるぞ」

「えっと……誠に申し訳ないのですが、わたしは……その……女王陛下の下で仕事をしに来たのです」

「なに?仕事だと?どんな仕事だ?」

「わたしは女王陛下の忠実なるしもべです。今日からわたしが宮殿に届けられた食材を選別し、女王陛下に御馳走を提供いたします」

「ほぅ・・・・・・。どうやって食材を選別するのだ?」

「……女王陛下の意思をもって」

「・・・・・・・・・」


頭を必死に回転させて何とか食われない口実を考えたが果たして……。


「面白い。グランツが選んだ人間と聞いて、どんなつまらん奴かと思っていたが、存外に愉快な奴だ。貴様のような奴は初めてだ。気に入った。余に仕えることを許可する。文字通り死ぬ気で働くが良い」

「ありがたき幸せッ!!!!!」

「貴様、名は何と申す?」


土壇場の一芝居によって九死に一生を得た。帝国劇場に週3で通っていた甲斐があったな。ひとまず一命をとりとめたことに安堵しつつ、大声で自分の名を叫んだ。


「ロート!ロート・ドライツェーンであります!!」


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