第17話 文章のリズム


 前回の続きです。

 ケンとリュウの会話について。

 ついでに解説します。



「おはよう」

 ケンは疲れたように席に着く。

「おはよう」

 リュウは苦笑して肩をすくめた。

 


 これですね。で、会話文と余計な言葉を抜くと……。



 ケンは席に着く。

 リュウは肩をすくめた。



 となっていますね。一行目が、現在形。二行目が、過去形です。


 英語では時制の一致といって、現在形と過去形を混同しませんが、日本語の小説は逆です。

 小説でリズムのいい文章を書こうと思ったら、過去形と現在形を交互に使ってください。



 彼は走る。走りながら後悔する。後悔しながら、次の角を曲がる。そこで、バナナの皮を踏み、派手に転ぶ。膝から血が出る。あまりに痛くて泣く。


 ↑はリズムが悪いです。では↓は?



 彼は走る。走りながら後悔した。後悔しながら、次の角を曲がる。そこで、バナナの皮を踏み、派手に転んだ。膝から血が出る。あまりに痛くて泣いた。


 なんか小説っぽくなりました。

 現在形と過去形が交互に使われた文章です。

 リズムの良い小説の文章はこれだけで書けます。


 ただし、過去形と現在形を交互に使用せず、わざと連発する表現方法もあります。たとえば、戦闘描写などでは、現在形を連続させ、短文、体言止めを多用します。




 おれは素早く間合いに飛び込んだ。

 おれの蹴り。敵はかわす。俺の突き。敵はかろうじて受け流す。

 さらに下から蹴り上げる。敵はのけぞる。おれは追い打つ。逃れる敵。




 というような感じですね。


 これは現在非公開の『雲江流戦闘描写講座』から引用しました。ただし、『戦闘描写講座』では、この短文、体言止めはどこかで卒業しろと講義しています。が、ここは初心者向けの解説なので、戦闘描写としてはこのレベルで十分ではないでしょうか。




 えーと、次は「……」の話でいいですかね?

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