第19話:迫り来る脅威
休暇は今日と明日、明後日ともらえた。
メイリス団長も「疲れをとってくれ。その間は任せてくほしい」と言われたので有難かった。
まあ、軍部の上層部からは小言を言われたが、メイリス団長が「なら一カ月死と隣り合わせの生活を送ってみますか?」と言って黙らせていた。
かっこよくて惚れそうだったぜ。
持ち帰った魔法陣の研究や石板の解読もあり、陛下が城で部屋を与えてくれた。
男女は別だが、二人一部屋ということもあり広々と使えている。
まあ、そんなこんなで湯浴みを終えて部屋に戻り、夕食の時間となったので俺たちは一つの部屋に集まり席に着いた。
メイドが温かい食事を運んできてくれた。スープの香りが心をほぐし、疲れた体が癒されるようだった。俺たちは互いに軽く冗談を飛ばしながら、戦闘で消耗した体力を回復するために食事をとった。
「こんなに落ち着いて食事ができるの、どれくらいぶりだろうな」
カイルが満足げにスープをすすりながら言った。
「ほんとうですね……熱いスープを飲むだけで、あの一カ月がどれだけ過酷だったか実感します」
エリアスも同意していた。
「それにしても、仕事が山積みですね。魔法陣の解析と石板の解読。休息とは言っても完全に休めるわけじゃないので、少し計画的に動かないとですね」
セリナの言葉に俺は頷いた。
「そうだな。とりあえず、優先順位を決めよう。まずは報告内容を整理しつつ、解析の進捗を確認する。あとは防衛準備の支援や、必要な備品の調達もリストアップしよう」
俺は具体的な指示を出し、皆で段取りを整えることにした。
翌朝、少し休息を取った俺たちは王都の魔術研究所を訪れた。最初に持ち帰った魔法陣の記録と石板は、すでに研究員たちの手に渡り、解析が進められていた。
「リク様、これは非常に興味深いですね」
研究所の主任研究員、エルマーが目を輝かせていた。
「この魔法陣は、極めて高度な召喚術に関連している可能性があります。悪魔召喚だけでなく、呪詛も絡んでいるようです」
「呪詛まで? 具体的にはどんな影響が?」
俺は眉を顰めた。
「まだ完全に解析できていませんが」
「それでも聞きたい」
エルマーは「分かりました」と言って可能性を口にした。
「石板に書かれていたことですが、発動された一部の土地が不毛の地になったり、周辺の死者がアンデッドになったりでしょうか」
エルマーの言葉に、周囲がざわついた。
「なるほど。引き続き解析を進めてくれ。できれば対策案も考えてほしい。俺はそういった知識がないからな。セリナ、渓谷で見た魔法陣を」
「はい。エルマーさん、こちらです」
魔法陣の書き写された魔法陣を受け取ったエルマーは、驚いた表情をしていた。
そしてどのような魔法陣なのかを話し始めた。
「この魔法陣の効果は洗脳です。それも大規模の。禁忌に指定されている洗脳魔法を、大規模に改良したものになります。これをオークに?」
俺は頷いた。
「そうだ。渓谷で見たあのオークは、悪魔教徒や魔族の魔法でキングやジェネラルが洗脳され、さらにこの魔法陣によって洗脳の強化と統率されていたと考えている。普通、あれほど大規模なオークの群れが秩序を持って動くことはありえない」
オークにそこまでの知性があるとは思えない。
「禁忌の魔法をここまで大規模に使うとは……敵はどれだけのリソースを費やしているのか見当もつきませんね」
エルマーはため息を吐いた。
「一人は魔法の維持にかなり集中しているようでした。魔法陣は魔石のようなモノで魔力を賄っていました。それでも、魔法陣を壊せば解けるんですよね?」
セリナの問いに、エルマーは首を横に振った。
「恐らく難しいですよ。この魔法陣、発動には時間がかかりますが、魔法陣が壊れても、かなり深層意識に刷り込むレベルでかかるみたいです。解けたとしても、本能レベルで刷り込みがされているので意味ないですよ」
エルマーが答えると、カイルが不機嫌そうに口を挟んだ。
「まったく厄介な話だな。オーク五千の軍勢と、その後ろに悪魔教徒と魔族。俺たちだけでどうにかできる規模じゃない」
カイルは肩を竦めた。
「その通りだ。みんなで、各国で手を取り合って対処するしかない。それに、あの場面で魔法陣を破壊するとか自殺行為だろ。俺たちは俺たちにできることをしよう」
俺の言葉にみんなが頷いた。
戻り防衛関係で話し合い、休み明けにまた来ることを伝えた。
部屋に戻った俺は、ベッドで横になる。
「もう、すべてを丸投げしてトンズラしてぇ……」
「おいおい……」
同室のカイルが呆れていた。でも、思うことは同じなのだろう。
「誰か一人が頑張っても、それでも沢山死ぬことになる」
「……だな。何度も言うが、できることをすればいい」
「可能な限り手は打つさ。しかし、周辺諸国からの増援は期待できないだろうな」
数週間で動かせる兵力には限りがある。アルカディア王国でも、帝国との国境の防備を薄くするわけにはいかなかった。
「まあ、明日は何も考えずのんびりしたい」
「まったくだ。酒でも飲んで忘れるか」
「翌日には嫌でも思い出すぞ」
カイルは「うへぇ」と嫌そうな顔をするのだった。
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回復魔法が冷遇されている異世界で、戦闘狂一族の末息子が「狂戦士」として回復魔法を極め、世界最強へと至るまでの物語です。
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