第18話:休暇をもらう

 王都に戻るまでの数日間、俺たちは慎重に進んだ。

 道中の警戒を怠らず、周囲の動きに常に気を配りながら、ようやく王都の外壁が見えたときには、安堵のため息を吐かずにはいられなかった。


「ようやく王都か……」


 カイルが疲れた様子で言った。

 カイルだけじゃない。他の面々も疲れた表情をしている。生きて帰ってこれたことで、緊張感が抜けているが仕方がないことだろう。


「王都の外壁を見た瞬間、疲れが一気に吹き飛んだ気がするよ。きっと過去の自分は壁に感謝する日が来るとは思わなかったさ」

「ほんとですね……」


 エリアスが頷いていた。

 そのまま外壁で警備している兵士に話し、中へと入れてもらう。


 王都に到着するや否や、俺たちは王城の門へと向かった。警備兵が俺たちを見てすぐに反応し、慎重に迎え入れてくれた。


「お前たち、何があった!」


 王城の門番が急いで俺たちを案内し、近衛騎士へと引き継ぎ戻って行った。

 俺は案内をする近衛騎士に問いかける。


「急いで報告が必要です。すぐに陛下と謁見します。他にも騎士団や軍部関係者を王の間に招集してください」


 本当はのんびり休みたいところだが、こればかりは報告が優先だ。

 俺の言葉に近衛騎士は驚いた表情を浮かべた。報告で挙げた人達を招集するとなれば、ただ事ではないからだ。


「それほど、なのか……?」

「急いで対処しないと不味い状況です。一刻を争います」

「わ、わかった! すぐに準備を進めるが、それまで休んでくれ」

「わかりました」


 案内がされ、俺たちは王城にある広めの部屋に案内された。メイドたちがお茶や菓子を持って来る。お礼を伝え、俺たちは時間までゆっくりと休んだ。

 それから程なく。時間にすると三時間ほどだろう。呼ばれたので王の間へと向かう。

 ぶっちゃけ、玉座があるだけの大広間だ。


 俺たちは中に入り、陛下の前まで来ると臣下の礼を取る。

 謁見が初めての者がおり、緊張している様子だ。大丈夫。すぐに慣れるさ。

 陛下はすぐに俺たちを見て、緊張した面持ちで言った。


「お前たちが戻ったか。だが、その顔つきは何かがあったようだな。詳しく話せ」


 俺はすぐに話を始める。

 悪魔教徒と魔族の動き、渓谷で見たオークの軍勢、そして魔法陣の存在、それがただの軍勢を指揮するためのものではなく、恐ろしい儀式のためのものである可能性が高いことを詳述した。


 さらに、敵の計画がうまく進めば、アルカディア王国のみならず、周辺諸国にも大きな被害をもたらすことを伝えた。


「……その規模の軍勢を指揮している者たちの目的は、大悪魔を召喚することです。もしそれが成功すれば、王国はもちろん、周辺国もただでは済まされません」


 前代未聞ともいえる数のオークの軍勢が迫っていると聞き、広間は騒然とする。

 俺は言葉を続けた。

 陛下はじっと俺の目を見つめ、深く黙っていた。しばらくして、ようやく口を開いた。


「なるほど、リクの言う通りなら、迅速に動かねばならん。だが、軍を動かすには時間がかかる。その情報が正確だとしても、王国全体を動かすには数日、いや数週間かかるだろう」


 当然だろう。準備しろと言われて、オーク五千を相手する軍を数日で編成して出すことなど不可能。


「敵の計画は、もう始まっています。動き出すのが遅れれば、手遅れになる可能性が高いです。ゆえに早急に対応せねばなりません。少しでも対応をミスれば、この国は滅びます」


 陛下は深く考え込み、そして決意を固めたように頷いた。


「分かった。すぐに軍の動きを検討する。しかし、同時にお前たちにも任務を与えよう」


 え? あの、帰ってきたばかりなんですが……?


 チラッと後ろを見ると、青い顔をして俺を見ていた。

 言わなくても、その表情を見れば理解できる。それは「休みが欲しいから何とかして」と物語っていた。

 任された。

 俺はエリアスとセリナ、カイルたちにしか見えないように、親指を立てた。

 キラキラとした期待の眼差しが向けられる。


「陛下、よろしいでしょうか?」

「む? なんだ?」


 この場では言いずらいが、俺は正直者だ。国のピンチでもそれは変わらない。


「俺はまだ大丈夫ですけど、他のみんながエネルギー切れです。このままだと、次の任務に行く前に全員寝袋行きですよ。正直言って、俺たち、国のピンチを救う前にまず、ピンチな状態になりそうです」


 広間に静寂が訪れる。

 まあ、俺のせいなんだけどね!


 皆の視線が俺に集まり、空気が一気に重くなる。しかし、陛下はじっと俺を見つめ、やがて深くため息をついた。


「……そうか、疲れているか」


 陛下は少し肩の力を抜き、そして優しい表情を見せた。


「リク。お主たちの話は重く、すぐにでも動かなければならないことは理解している。しかし、休息を取らずに次の任務に臨んでも、効率が悪いだろう。少しの間、休息を取るがよい。だが、休養後には必ず動き出してもらう」

「ありがとうございます、陛下」


 俺たちは心から感謝の意を込めて頭を下げる。

 陛下はにっこりと笑って、再び真剣な表情に戻る。


「だが、休んでいる間にお前たちができることもある。王都の防衛準備や兵站の確保、情報の整理など、他にもすぐに取り組むべき事は多い。特に石板の解析や、今回持ち帰った魔法陣の解析もある。それに、急いで報告を集め、状況を整理して次の対応策を練らなければならん」

「わかりました。休息を取りつつ、できることを片付けていきます」


 陛下はもう一度、俺たちの疲れた表情を見て頷いた。


「今後もよろしく頼む」


 その後、俺たちは陛下からの許可を得て、広間を後にした。王城内の休息場所に案内され、ようやく一息つけることになった。


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