第15話:深まる謎
俺の言葉が終わると、遺跡の静けさが一層深まった。
仲間たちはその場に足を踏み入れることなく、周囲を警戒しながら俺を見つめていた。
祭壇の破壊が確実に儀式を中断させたことは間違いないが、それだけでは安心できないことは俺たち全員が感じ取っていた。
「リクさん、あの男が言っていた『永遠なる存在』とは、いったい何なんですか?」
エリアスが問いかける。その目には疑念と不安が浮かんでいた。
俺は少しだけ黙って考える。あの黒ローブの男が何を意味していたのか、その言葉が頭から離れなかった。
悪魔教徒たちは、何かを求めて暗躍している。だがその『永遠なる存在』という言葉が指すものが何なのかは見当がつかない。
「分からない。ただの言葉かもしれない。だが、気を引き締めておけ。あいつのような存在がまた現れるかもしれん」
俺は慎重に答える。
「でも、儀式を止めたんですよね?」
セリナが続ける。
「これであの教徒たちの計画はもう終わりってことでしょう?」
「それはどうだろうな」
俺は考えながら言った。
「ただ、そう簡単に諦めるような連中じゃないはずだ。今回の件はまだ始まりに過ぎないだろう」
俺の言葉に、仲間たちの顔が険しくなった。
だが、まだ終わりではない。俺たちは少なくとも今は一つの勝利を手にしたが、これで終わりではないことは誰の目にも明らかだった。
「でも、次に備えるためには、この遺跡についてもっと知る必要があるな。あの祭壇の魔法陣について、他にも手がかりが残っているかもしれない」
俺は周囲を見回しながら言った。
「了解です、リクさん」
セリナはすぐに動き出し、祭壇の周りを調べ始める。エリアスも警戒を続けつつ、遺跡内の隅々を確認していった。
しばらくして、セリナが祭壇の近くで何かを見つけたようだ。
「リクさん、これを見てください」
彼女は手に何かを持ち上げていた。
それは古びた石板で、表面には何かの文字が刻まれている。文字はかなり風化していて、解読には時間がかかりそうだ。しかし、その石板が何か重要な情報を持っている可能性が高いことは一目で分かった。
「これでまた新たな手がかりを得たわけだな」
俺は石板を受け取り、慎重に眺める。
「これを解読するには時間がかかるが、重要な情報源になるだろう」
「でも、気をつけてください、リクさん」
セリナは警戒を解かずに続けた。
「あの男が言っていた『永遠なる存在』が何かに関わっている可能性がある。私たちが調べる間にも、何か仕掛けられているかもしれません。」
「その通りだな」
俺は頷き、再度周囲を確認した。
「警戒を続けながら、この石板を解読しよう。最終的にこの遺跡が何を秘めているのか、必ず突き止める」
仲間たちもそれぞれの役割を確認し、再び集中して調査を続ける。
しかし、これ以上は特に情報がなく、石板と魔法陣を書き写すだけとなった。
外に出て、警戒しているカイルたちと合流した。
「リク、大丈夫だったか? 戦闘になったんだろう?」
「悪魔教徒がいて倒した。あと、めぼしい情報といえば石板と祭壇にあった魔法陣だけだ」
「そうか。捕縛はできなかっただな?」
「ああ。身に付けていた衣服は回収したが、死体は儀式の影響なのか身体が砂になった」
一同が険しい表情になる。
「話は拠点に戻ってからにしよう」
俺の提案に全員が頷く。
拠点に戻り、一同が天幕に集まった。疲労が見え隠れする仲間たちだが、全員の目には緊張感と決意が宿っていた。
戦いが終わったわけではないという共通認識が、場を引き締めている。
「さて、今回の件について整理しよう」
俺は会議の冒頭で静かに口を開いた。
「黒ローブの男を倒し、祭壇を破壊したことで儀式は阻止できた。だが、これは始まりに過ぎない可能性が高い」
俺の言葉に、全員が頷く。
「見つけた石板と魔法陣についてだが、専門的な解析が必要だ。この遺跡は古代の遺物が多く、俺たちでは解読が難しい。これらは王都の研究所に送り、魔導士や学者たちに協力を依頼するべきだろう」
「賛成です」
セリナが即座に手を挙げる。
「特に魔法陣の情報は、敵の目的や今後の動きに繋がる重要な鍵になると思います」
「石板に刻まれている文字も気になりますよね」
エリアスが加わる。
「俺たちが解読に時間をかけるより、王都の学者に任せたほうが効率的だろう」
「その通りだ」
俺はカイルの言葉に同意し、石板を守るようにしていた布包みを掲げた。
「これと魔法陣の書き写しを明朝、信頼できる使者を通じて王都に送ることにする。マルス、すぐに準備をして王都に持って行ってくれ。それと遺跡で起きたこの報告を頼む」
「構わないが、届けたあとは?」
「そのまま上司から命令を仰いでくれ」
「了解だ。みんなの無事を祈る」
一番若手の騎士であるマルスは即座に返事をし、手配に取り掛かる準備を始めた。
「さて。次に、今後の方針についてだ」
俺は話題を切り替える。
「今回の戦いで、悪魔教徒たちが遺跡を利用して何かを企んでいることは明らかになった。だが、これが終わりではない可能性が高い」
「奴らの動向を探る必要がありますね。」セリナが補足する。「今回の儀式を中断させたことで、敵は次の手を打ってくるはずです」
「そのためには、俺たちの動きを二つに分ける」
俺は続けた。
「まず、次の拠点の調査を急ぐ。近隣の遺跡の中で、悪魔教徒が利用しそうな場所を割り出し、監視と調査を行う。これは俺たちのチームが引き続き担当だ」
「了解です」
エリアスが力強く頷いた。
「もう一つは情報収集だ。敵の動向、悪魔教徒の詳細と目的を調べる必要がある。これには他の部隊や王国の情報網の協力も必要になるだろう。カイル、こっちを頼む」
「任せろ。連絡網を使って、必要な情報を集めよう」
「最後に、各自、装備や魔力の補充を行い、いつでも次の戦いに備えられるようにしておけ」
俺は全員を見渡しながら言った。
「敵は予想以上に狡猾だ。油断は命取りになる」
「分かりました」
セリナが答え、エリアスや他の仲間たちも頷いた。
「それじゃあ解散だ。明日の準備と休息を取ってくれ。酒場じゃないんだ。くれぐれも酒は飲むんじゃないぞ」
俺は軽く手を挙げて会議を締めくくった。
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