第14話:悪魔教徒
その足音は徐々に近づいてくる。石畳を踏みしめる重い響きが、遺跡の静寂を打ち破った。俺たちは全員、その方向に武器を構えた。
「誰だ!」
俺が鋭く叫ぶと、奥の暗闇からゆっくりと姿を現したのは、全身を黒いローブで覆った何者かだった。
顔はフードに隠されているが、その者から発せられる異様な気配が全身に鳥肌を立たせた。
「ほぅ……アルカディア王国の勇者候補と、その仲間たちか」
低く響く声。男か女か判別しづらい不気味さを纏っている。
「何者だ? ここで何をしている」
俺が問い詰めると、そいつはゆっくりと笑みを浮かべたように見えた。
「ここは神聖なる儀式の場。貴様らごときが立ち入るべき場所ではない。だが、まあいい。いずれこの地は我らのものとなる。少々邪魔が入った程度で計画が狂うことはない……」
そいつの言葉から察するに、やはり悪魔教徒の一味だ。だが、その落ち着きようと余裕は明らかに尋常ではない。俺は咄嗟に仲間たちに指示を飛ばした。
「全員、陣形を固めろ。奴が何を仕掛けてくるか分からない」
冷静かつ迅速に指示を出し、エリアスとセリナは即座に俺の背後に立ち、警戒の構えを取る。
「フフ……無駄な足掻きを」
黒ローブの男が手を掲げた瞬間、周囲の空気が一変した。祭壇の魔法陣が一層強く輝き、遺跡全体が震動する。
床の下から不気味な呻き声が響き渡り、低級の悪魔が次々と顕現した。
「おいおい、本気かよ……!」
仲間の一人が叫びながら剣を構える。
「リクさん、どうしますか!」
エリアスが緊張した声で問いかける。
俺は瞬時に状況を判断した。低級悪魔の出現は黒ローブの男が意図的に仕組んだものだろう。だが、ここで動揺するわけにはいかない。
「全員、落ち着け! これはただの牽制だ。奴が本命だ、悪魔を抑えつつ黒ローブを狙う!」
指示を飛ばすと同時に、俺は剣を手に影のように動き出し、次々と低級悪魔を斬り伏せる。
その動きは速さと正確さを極め、周囲の仲間たちが呆気に取られていた。
「セリナ、後方に警戒するように合図を送れ! そしたらすぐに後方支援に回れ!」
「了解です!」
セリナは即時に詠唱して火球を外へと飛ばし、後方支援のため魔法を詠唱する。
エリアスも剣を構え、俺の隣に並んで攻撃に移る。
しかし、雑魚とはいえ数が多い。
「フン……なかなかやるではないか」
黒ローブの男が冷笑を浮かべる。その手が再び動き、祭壇の魔法陣からさらに強力な悪魔を召喚しようとしているようだった。
「させるかよ!」
俺は一瞬で間合いを詰めた。魔法は使えなくとも、魔力の扱いなら誰にも負けないと自負している。
自らの剣に魔力を集中させ、斬撃を放つ。その一撃は、黒ローブの男の背後の空気すら切り裂く威力を誇った。
しかし、男は召喚を中断し、手に魔法の盾を作り出してその攻撃を防ぐ。だが、俺の剣は物理的な力だけでなく、練り上げられた魔力の圧が込められている。
盾が砕け散る音が響いた。
「なにっ⁉」
男の驚いた声が響く。
「……貴様、ただの兵士ではないな」
「俺はただの兵士だ。だが、お前のような奴を見逃すほど甘くはない!」
俺は再び間合いを詰める。
セリナとエリアスも俺の動きに合わせ、援護に入る。セリナの魔法が周囲の低級悪魔を牽制し、エリアスが黒ローブの男に一撃を加えようと剣を振るう。
しかし、男は素早く後退し、再び詠唱を始めた。
「詠唱が終わる前に、ちょっとだけ休憩でもどうだ?」
俺はすぐに仲間に合図を送り、魔力を最大限に集中させた。魔法を使えない俺が編み出した独自の技術――『魔力干渉』。
俺が手のひらを突き出し、握り締める。すると男の魔力が乱れ、詠唱が打ち消された。
魔力干渉による、魔法の無効化である。
「な、何だと……⁉」
驚愕する男の隙を突き、エリアスが剣を突き立てた。男は間一髪で身を躱すが、肩を斬られたようで苦痛の声を上げる。
「ここ!」
俺は隙を突いて男の懐へと潜り込む。男に躱す余裕がないのは明白で、俺は剣を振るった。
しかし、男は斬り裂かれる直前、不気味な笑みを浮かべ最後の力を振り絞るように短縮された呪文を唱えた。
斬り裂かれた男は、地面に倒れ伏し血を流す。まだ息はあるようで俺は問う。
「お前が悪魔教徒の一員であることは分かっている。何が目的だ?」
「ハァ、ハァ……ぐっ、ははっ。我らは、永遠なる存在……ごはっ……ハァ、ハァ……目的など、直に、わかるだろう」
問い質そうとしたが、男はすでに死んでいた。
遺体を持ち帰り調べようとして、遺跡全体が再び振動し、祭壇が爆発するように強い光を放つ。
光が収まったとき、黒ローブの男の死体は砂になっており、衣服しか残されていなかった。
同時に低級悪魔たちも消滅しており、周囲は静寂を取り戻していた。
「……全員無事か?」
俺は振り返り、仲間たちの無事を確認する。エリアスとセリナも無傷で、他の仲間たちも軽傷で済んでいた。
「確保したかったが仕方がない。祭壇は破壊できたのでよしとしよう。これでひとまず奴らの儀式は阻止できただろう」
仲間たちが安堵の表情を見せる中、俺は険しい顔をしていた。
「だが、これで終わりではない。むしろ、始まりだろうな……」
俺の言葉に仲間たちの表情が引き締まる。
この戦いの背後には、さらなる脅威が潜んでいることを全員が感じていることだろう。
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