第11話:謁見

 王都への帰還の準備を進める中、全員が沈痛な表情を浮かべていた。

 ローブの男の言葉とその姿が頭から離れない。『黒晶石』、そして彼の言う『悪魔教徒』との関係。

 彼の目的が依然として不明なまま、村の周辺に残された死者や損害を前に、深刻な思いが広がっていた。


「リク、お前はどう思う?」


 メイリス団長が訊ねる。

 俺は少し黙った後、ゆっくりと答えた。


「正直、あの男の言葉が気になります。特に『黒晶石』のこと。あれがどんな力を持っているのか……嫌な予感がしてならないです。今後、大きな災いになるかもしれない」

「同感だ。帰ったらすぐに『悪魔教徒』の情報を集めた方がいいだろう」


 するとミラ団長も会話に混ざってきた。


「あの『黒晶石』が持つ力がどれほど危険かはまだ分からないが、恐らくは私たちの予想を超えている」


 一行が王都に向かう途中、何度もローブの男と彼が言った言葉が頭の中で響き続ける。

 その一つ一つが、まるで暗闇に包まれたような重圧感を与えてくる。

 彼が言った「世界の命運を賭けて戦うことになるだろう」との言葉は、間違いなく何かの予兆であり、何か大きな運命の転換を意味している気がしてならなかった。


 王都に到着すると、団長たちはすぐに陛下との謁見を執り行うことになった。

 それほどに重要な出来事だったからだ。

 俺も伯爵級悪魔を討伐した本人として、ローブの男と最初に遭遇した者としてついて行くことに。


 謁見の間には陛下はもちろんのこと、大臣や軍部の高官、各騎士団の団長たち、有力な貴族たちまでもが集まっていた。

 俺とメイリス団長、ミラ団長、ガストン団長は臣下の礼を取る。そしてガストン団長が代表で今回の件を一から報告した。


 伯爵級悪魔を倒したことで賞賛が聞こえるも、ガストン団長が「まだ続きがあります。ここからが本題です」と前置きをし、ローブの男と黒晶石に関して話し始める。

 話が終わると、誰もが深刻な表情を浮かべた。

 報告を受けた国王は、少しの間沈黙してから深刻な表情で口を開く。


「『悪魔教徒』とは……何とも恐ろしい話だ。悪魔信奉者が国境を越えて活動をしているとは……我々としては、この問題を迅速に処理しなければ、手遅れになるだろう」

「その通りです、陛下」


 ガストン団長が力強く言う。


「しかし、あのローブの男の言う通り、今の時点ではまだ具体的な手がかりはありません」


 俺も今回の一件で色々と思考を巡らせていた。すると、陛下の視線が俺へと向けられた。


「リクよ。今回、もっとも深く関わっているお主なら、何か分からないか? そうじゃなくとも、お主は優秀だ。是非、リクの考えを聞きたい。目立ちたくないのは知っているが、ここに居る者たちはお主が優秀ということは知っている」


 全員の視線が俺へと集まる。陛下の言う通り、ここに集まっている全員、俺の功績を知っている。なので目立ちたくないからと適当に答えたところで意味はない。

 俺は諦めてため息を吐きながらも口を開いた。


「推測でよろしければ、ですが」


 陛下が「構わぬ」というので、俺は推測を語る。


「今回の一件は、停戦協定を破った帝国が始まりだと思っています。国境を切り取ろうとしていたのは事実でしょう。証言も得られています」


 俺は言葉を続ける。


「しかし、その後は我が国の国境付近の村の者をすべて生贄に悪魔が召喚された。ヴァルガン帝国によって、悪魔教徒が入り込んだことに気付かなかったのでしょう」


 すべては帝国が仕組んだことだ。


「悪魔教徒とヴァルガン帝国は手を組んでいるのは確実です」


 その発言に大広間はざわつくが、俺は言葉を続ける。


「しかし、疑問も残ります」


 陛下が「疑問だと?」と言うので俺は頷き、ミラ団長に尋ねる。


「ミラ団長、魔族領の偵察は行っていますよね?」

「無論だ。報告は届いている」

「では、直近で魔族に動きはありましたか?」


 その言葉にミラ団長は一瞬押し黙り、「いや、動きは見られない」と返事を返した。

 それを聞いて俺は八割がた確信する。


「復活した魔王が軍を動かしていないのは可笑しい。そして、帝国は魔族領と面している領土がどの国よりも大きく、簡単に入り込める」

「リク、何が言いたい?」


 メイリス団長の言葉に俺は告げた。


「悪魔教徒の手に堕ちたヴァルガン帝国は、魔王に協力している。あるいは共闘関係にある」


 その発言に、大広間に沈黙が流れる。誰もが考えたくなかった未来だろう。

 俺だって考えたくない展開だ。


「リク、そなたは本気でそう思っているのか?」

「八割ほどになりますが」


 重苦しい空気の中、陛下は口を開いた。


「わかった。今回の件、慎重に事を進める必要がある。各国と連携もしないといけないだろう……」


 すると陛下は立ち上がり命令を下す。


「皆の者、帝国周辺と悪魔教徒に関する情報共有は密にせよ。一つたりとも見逃すな!」


 陛下の命令が下されると、大広間の中で一斉に動きが始まった。軍部の高官たちは周辺諸国への外交団の派遣準備を指示し、各団長たちは自らの部隊を再編成し、偵察や防衛線の強化に努めることを約束する。


 俺もその様子を見ながら、自分にできることを考えていた。

 悪魔教徒の目的、黒晶石の脅威、帝国と魔王の動き……全てが絡み合い、事態は複雑になっている。だが、間違いなく分かっていることが一つある。

 それは、放置すれば全てが取り返しのつかないことになるということだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る