第6話:悪魔との戦い3

 北側への移動を開始してからしばらくすると、森の中に漂う空気が明らかに変わった。

 周囲の気配が重苦しくなり、緊張感が一層高まる。


「間違いない、この先に最上級悪魔がいる」


 メイリス団長が鋭い視線を向け、仲間たちに警戒を促す。

 やがて開けた場所に出ると、そこには禍々しいオーラを纏った三体の最上級悪魔が待ち構えていた。全身を覆う黒い甲殻と、紅い瞳が不気味に光る。


「全員、構えろ!」


 ガストン団長の号令で、騎士たちは一斉に武器を構え、陣形を整える。


「リク、こちらで二体を引きつける。ミラ第四騎士団長と一緒に残りの一体を迅速に討伐しろ!」


 メイリス団長が冷静に指示を出す。


「了解!」


 俺はミラ団長と共に最前線に立ち、仲間たちと連携して敵を迎え撃つ。

 最上級悪魔の咆哮が大地を震わせ、戦闘が始まった。


 俺たちが向かったのは、最も隙の多そうな個体だ。

 だが、油断はできない。悪魔は鋭い爪を振りかざし、周囲を薙ぎ払うように攻撃してくる。

 被害が大きくなる前に。ミラ団長が騎士に眷属の悪魔を優先するように指示を出し、俺に振り返る。


「リク、行くぞ!

「はい!」」


 ミラ団長の声に応じ、俺は素早く動き、悪魔の側面に回り込む。そして、攻撃の隙をついて剣を振り下ろす。

 油断していたのだろう。俺の振り下ろした剣は最上級悪魔の左腕を斬り飛ばした。

 悪魔が断末魔を上げる。


「ミラ団長!」


 俺が声をかけるのと同時、ミラ団長が死角に回り込んで細剣を構え、腰を深く下ろしていた。


「はぁ!」


 ミラ団長の魔力が込められた素早い連撃の突きは、一秒で十回も放っていた。

 穴だらけになった最上級悪魔は、体の端が黒い塵となって空気に消えていった。


「流石です、ミラ団長」

「リクが敵を引きつけてくれたおかげで楽に倒せた。二人の援護に行こう」

「はい!」


 俺たちは次の標的である、二匹の最上級悪魔のところへと向かった。

 そこには、二匹の悪魔と戦うメイリス団長とガストン団長の姿があった。


 メイリス団長とガストン団長が引きつけていた二体の悪魔は、彼らの巧妙な戦術によって追い詰められていた。


「右から押し込む! メイリス、お前は魔法で援護だ!」


 メイリス団長はガストン団長の指示に応じ、炎の魔法を放つ。それは悪魔の動きを封じ、ガストン団長が一気に間合いを詰める隙を作った。


「これで終わりだ!」


 ガストン団長の魔力の込められた一撃が、悪魔を両断した。

 断末魔を上げ、黒い塵となって消える悪魔をよそに、ガストン団長が声を上げる。


「早くもう一体の方を――」

「それには及びませんよ」


 俺とミラ団長で三匹目を仕留めていた。


「もう倒していたのか」

「リクが上手く敵の隙を作ったおかげで、私のスピードを活かせました」

「ははっ、流石『無名の兵士』と言われるだけはある」

「止してくださいよ。最後の南にいる最上級悪魔二匹は団長たちにお任せします。俺は雑魚を倒して味方の援護をします」


 頷く三人。俺は援護が必要そうな味方の援護をするため、動き出した。

 俺は戦場を駆け回り、仲間たちの援護に全力を尽くした。

 最上級悪魔の脅威が減ったとはいえ、依然として下級や中級悪魔の数は多い。油断すれば、囲まれて押し潰される危険もある。


「後ろだ!」


 仲間の背後に迫る悪魔を見つけ、即座に駆け寄る。

 剣を一閃し、その首を刎ねると、感謝の言葉が返ってきた。


「助かった、リク!」

「後で酒を驕れよな」

「おまっ! ったく、分かったよ」

「お前たちも、ここが正念場だ! 団長たちが残りの最上級悪魔を倒しに向かった! そうすれば残りは低位の悪魔と伯爵級だけだ!」


 仲間たちに激を飛ばしながら、俺はさらに動きを加速させた。

 剣を一閃すると悪魔がまとめて斬り裂かれ、悪魔どもを仕留めていく。


 そんな中、森の南側から禍々しい気配が漂ってきた。

 振り返ると、ガストン団長たちが南にいる最上級悪魔二体との戦闘を開始したようだった。


「ここで踏ん張らないと、全滅するぞ!」


 ガストン団長の雄叫びが戦場に響き渡る。

 その言葉に触発され、騎士たちの士気が高まるのを感じた。

 俺も援護に駆けつけたい気持ちはあったが、悪魔が次々と襲いかかってくる。

 倒した数はすでに百は超えていたが、それでも当初の二百五十という数を遥かに超えていた。


 それでもまずは、自分の役割を果たさなければならない。

 次々と襲いかかる悪魔たちを斬り伏せながら、俺は状況を見極めていた。

 俺がここを抜け出し、団長たちの援護に向かえば、こちらが全滅する恐れがあった。


「どうするか……」


 俺は悪魔を倒しながら思考を巡らせる。

 一気に数を減らせば、援護に向かう時間が出来る。最上級悪魔二匹を十秒以内に倒し、こちらの援護に戻る。

 俺は部隊長に尋ねる。


「部隊長。悪魔の数が半分になれば、ここはどれくらい持ちますか?」

「増えるかもしれないが、それでも現状よりは楽になるだろう」

「分かりました」


 それなら俺が敵を蹴散らし、団長たちに援護に行った方がいい。

 最上級悪魔がいなくなれば、少しは楽になるはずだ。


「でしたら、前衛を少し後退させてください。敵を半数ほど蹴散らしてきます。俺が出たら指示通りに」

「は? 何を言っている⁉ ちょっと――」


 俺は静止を無視して、悪魔の集団に向かった突撃するのだった。



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