第7話:悪魔との戦い4

 俺は悪魔の群れに突撃した。

 一瞬の静寂の後、悪魔たちはその動きを察知して一斉に襲いかかってくる。


「ははっ! かかってこいや、雑魚どもが!」


 剣を握る手に力を込め、俺は魔力を剣に集中させた。

 一振りで数匹、もう一振りで十匹の悪魔を斬り伏せる。魔力で強化した剣筋が、悪魔の甲殻すら砕き、次々と仕留めていく。


 連続して突き出した剣が、悪魔の集団の中心で爆発するような衝撃を生み、周囲の悪魔を吹き飛ばす。

 すると悪魔どもの動きが変わった。というよりも、俺を見て後退っていた。


「おいおい。なんで逃げ腰なんだ? そのやる気のなさ、もしかしてボーナスカットされた? まあ、カットされるのはボーナスじゃなくて、お前らの身体だろうがなぁ!」


 さらに多くの魔力を剣に流して一閃。一気に数十体の悪魔が斬り裂かれ、黒い塵となって消えた。

 俺は戦い続け、次第に周囲の視界が広がる。俺の周囲で悪魔たちが黒い塵となって消えていった。


「これで半分は――」


 後方の部隊長が驚愕した表情で呟く声が聞こえた。


「何だその動き、その力は……化け物だ」


 俺は振り返らずに応じる。


「化け物で結構です。仲間と俺の平穏を守るためなら多少本気は出しますよ。俺は団長たちの援護に向かいますので」


 そう告げて俺はその場を離脱して、団長たちの元へと向かった。

 南側では二体の最上級悪魔との戦闘が激しさを増している。

 一体は猛毒を放つ甲殻の悪魔。もう一体は炎を纏った猛獣のような姿だ。

 メイリス団長が毒を避けながら攻撃の機会を窺い、ガストン団長が猛獣の足止めをしている。その隙を突いてミラ団長が攻撃しているが、それでも倒し切れていなかった。

 三人とも苦戦している様子だ。


「援護します!」


 俺が叫ぶと、メイリス団長の驚いた表情で振り返った。


「そっちはいいのか⁉ 半分ほど倒してきました。アレなら数分は持ちます。その間にあの二匹を倒します」

「わかった。任せる!」


 俺は毒の甲殻悪魔に狙いを定める。

 毒の範囲攻撃を警戒しながら、俺は一気に間合いを詰めた。悪魔の毒針が飛んできたが、剣で弾き飛ばし、懐に潜り込む。


「そんなちんけな針を飛ばすくらいなら、縫物してる方がよっぽど役に立つぞ?」


 魔力を剣に注ぎ、一撃を放つ。甲殻が砕け、悪魔が苦しげな声を上げながら崩れ落ちた。

 すぐにもう一匹の方に意識を向ける。


「二人とも、巻き込まれたくなかったら下がってくださいね」


 ミラ団長とガストン団長にそう声をかけると、驚いた声が聞こえるも、俺の剣に魔力が纏われているのを見て後方に跳躍した。

 そのまま一瞬で懐へと潜り込み、斬り上げた。

 悪魔は断末魔を上げ、黒い塵となって消えた。


「これで最上級悪魔は全部倒し終わりました。本隊に戻って、体勢を整えましょう」


 俺の言葉に頷く三人。

 本体に戻り、体勢を整え悪魔を狩り始める。しかし、肝心の伯爵級悪魔は現れない。

 一体どこに潜んでいるのだろうか?

 そう思った直後、離れた位置に不気味に赤く輝く魔法陣が現れ、一匹の悪魔が現れた。


 異様な存在感と、不気味な魔力を放つ悪魔――伯爵級が姿を現した。

 黒を基調とした貴族のような服装を纏い、側頭部からは角が生えた者だった。

 悪魔は不機嫌そうな表情で俺たちを見ていた。


「私の配下がかなりやられたようだ。実に不愉快だ」


 伯爵級悪魔の冷たい声が戦場に響く。その声だけで、騎士たちは一瞬怯んだ。

 だが、団長たちは冷や汗を流しつつも、視線を逸らさずに相手を睨んでいた。


「貴様がこの混乱の元凶か。随分と高慢な態度だな」


 伯爵級悪魔は鼻で笑い、冷たく返す。


「高慢? 身の程知らずな虫けらがよく吠える。だが、お前たちの命運はここで尽きる」


 悪魔が手を掲げると、彼の周囲の地面に無数の小型の魔法陣が現れた。

 そこから湧き出したのは、これまでのどの悪魔よりも凶悪な気配を放つ眷属たちだ。その数、数百にも及ぶ。


「この数……不味いな」


 ガストン団長が苦々しく呟く。


「全員、冷静に! 集中して対処するのよ!」


 メイリス団長が指示を飛ばし、騎士たちは何とか体勢を立て直そうとする。

 だが、伯爵級悪魔は嘲笑を浮かべていた。


「その努力が無意味であることを教えてやろう。眷属よ、人間どもを嬲り殺しにし、暴虐の限りを尽くすのだ」


 眷属たちが声を上げ、一斉に襲いかかってきた。

 圧倒的な数の暴力に、仲間たちが次々と追い詰められるのが見える。だが、俺は立ち止まるわけにはいかない。

 ミラ団長が剣を掲げ、力強く叫んだ。


「私たちには仲間がいる! 全員、絶対に折れるな! ここで奴を止める!」

「「「応っ!」」」


 騎士たちは声を張り上げ、数の絶望を前になおも士気を高める。

 ここでこの悪魔を止めなければ、王国に甚大な被害が出る。

 勇気と誇りを胸に、剣と言う名の希望を手に、仲間と国、家族を守るために戦うのだと。

 すべての者に、この絶対悪を倒すという意思が宿っていた。


 こうして国境付近の小さな村で、人間対伯爵級悪魔の戦いが幕を開けた。

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