第10話:目立ち過ぎた
ハウザーを倒したことで、味方の士気が上がったのがわかった。
敵は最大戦力ともいえるハウザーが討ち取られたことで、士気は下がっている。
司令塔もいるが、多くが討ち取られていることで混乱が収まらないでいた。
「【豪剣】ハウザーは討ち取られた! 今こそ、前進するとき! 薄汚い帝国兵どもに、我らが土地を汚した代償を支払わせるのだ! ――全軍、進軍せよ!」
メイリス団長の声が戦場に響き渡り、王国軍は混乱している帝国兵に襲い掛かる。
俺は少し距離を置いて戦場を眺めていた。
自分の周りには、帝国兵たちが次々と討たれていくのが見える。ハウザーの撃破によって敵の士気が崩れ、連携も乱れている。
「全軍進軍せよ、か。団長の声は相変わらずよく通るな」
そう呟きながら、俺は相手の動きを冷静に観察していた。
周りが興奮する中、自分は冷静さを保っている。この混乱に紛れてどれだけ力を見せずに戦いを収めるかが、俺の腕の見せ所だろう。
ある兵士が俺に向かって突っ込んでくるのを確認し、俺はハウザーの使っていた剣を軽く構えた。
瞬時に相手の動きを見極め、軽やかに横へとステップする。次の瞬間、彼の剣が正確に兵士の急所を貫いた。
「すまないな。君たちにとっても悪い日だ」
冗談めかした声を投げかけながらも、俺の動きには一切の躊躇がない。
その間にも、周囲の帝国兵たちはさらに混乱に陥り、次々と王国軍に討ち取られていく。
一瞬の静寂が訪れ、リクは遠くから戦況を見守っていたメイリス団長の方を一瞥した。
「さて、このまま団長が命令を出し続けてくれるなら、俺の出番も少しは少なくなるかもな」
苦笑を浮かべ、リクは再び戦場の混乱の中に溶け込んでいった。
そのまま兵士たちに紛れて帝国兵を蹴散らしていく。
戦場は激しさを増していたが、俺はどこか冷めた視点でその光景を見つめていた。
王国軍が優勢であることは間違いない。だが、まだどこかで新手の帝国兵が出てくる可能性も捨てきれない。そう考えながら、周囲の動きを観察していると、奇襲班だった一人が俺の元にやってきた。
「リク、ここに居たのか」
「お前か。どうしたんだ?」
「本体の司令塔たちは全員やった。リクは一度団長のところに戻れ。雑兵の相手は任せてくれ」
ならすぐに片付くだろうから、戻っても問題ないだろう。それに、些か目立ち過ぎた。
これ以上は目立ちたくないので、戻ることにしよう。
俺は「なら一度戻る。何かあれば知らせてくれ」と言って、俺は戻ることにした。
俺は本陣へと戻り、団長のところに向かった。
「ただいま戻りました」
俺が戻ると、口々に「英雄の帰還だ!」と騒がれたが、エリアスとセリナも駆け寄ってきた。
「無事でよかったです!」
「リクさん、助けていただきありがとうございます!」
「俺もお前たちが無事でよかったよ」
二人の頭を優しく撫でていると、団長が声をかけて来た。
「おや。英雄は女たらしにでもなったのか?」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。これでも紳士だって言われているんですから」
「どこが紳士だ。とにかく、良くやってくれた。褒賞は期待していいぞ?」
「勘弁してくださいよ……俺は目立たず平穏に暮らせればそれでいいので」
「謙虚なことだ。まあいい。司令塔を失ったことだ、直に帝国軍も引くだろう」
報告を受けていたのだろう。そうじゃなくても、戦局を見れば誰でも理解できる。
長くも短いこの戦争は終息するだろう。
「んじゃ、俺はのんびり食事でもしますね。さすがにお腹が空いちゃいましたよ」
「しっかり休んでおけ」
メイリス団長が微笑むのを背に、俺は本陣を離れた。
歩きながら振り返ると、戦場で疲弊しつつも凱歌をあげる王国軍の兵士たちが見えた。
これで戦局がほぼ決まったと言っても過言ではない。
戦場の狂騒から一歩距離を置くと、静かな空気が妙に心地よく感じられる。
食事の場所を探し、兵たちのために用意されたテントに向かうと、そこにはいくつかの鍋が並び、炊き出しが始まっていた。
俺が近づくと、炊事班の兵士が驚いた顔をして声をかけてきた。
「お、リクさん! 今日の功労者がこんなところにいるなんて! 腹減ってますか?」
「おう、実は腹ペコだよ。さっそく頂くよ」
笑いながら鍋から盛られた温かいスープとパンを手に取り、少し離れた場所に腰を下ろした。戦場の緊張感から解放されたこの瞬間、ようやく安らぎが戻ってくる。パンをかじりつつスープをすすると、身体が内側から温まるのを感じた。
すると、エリアスとセリナがこちらにやって来た。どうやら自分たちも炊き出しをもらってきたようだ。二人とも疲れた顔をしているが、その目には喜びが浮かんでいた。
「私たちも休憩しろってメイリス団長に言われました」
「回復もしたし、戦いたかったけど……」
「戦局は決まったも同然だ。ゆっくりしてればいいんだよ。それに、エリアスとセリナも頑張ってくれたしな」
俺がそう言うと、セリナが笑顔で頷いた。
「リクさんのおかげで、私たちも安心して戦えました。ありがとうございます!」
「私からも、助けていただいてありがとうございます!」
「俺は目立ちたくなかったんだけどな。仲間を守るためさ」
肩をすくめて答えると、二人とも楽しそうに笑った。
そんな平和な時間が流れていたが、団長からの使者がやって来た。どうやら団長から正式な報告があるらしい。二人と共に再び団長の元へ向かうと、団長は俺を見てにやりと微笑んだ。
「リク、少し話をしよう。これからの我が軍の方針についても考えていることがある」
俺は頷き、団長と共に少し離れた場所へ歩いて行った。
これでようやく、この戦争が終息するのだと実感が湧いてきた。
平穏を求める俺としては、これ以上の願いはない。だが、団長がどんな計画を持っているのか、少し気になるところだった。
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