第8話:【豪剣】ハウザー2
ハウザーが再び剣を構え、全身に雷のオーラを纏わせた。彼の威圧感は戦場を支配し、周囲の兵士たちも息を呑んでその様子を見守っている。
「小僧、貴様のような無名の兵士に、この俺が負けるわけがない!」
その言葉に俺は肩をすくめ、わざと軽い口調で応じる。
「おいおい、そんなに自信満々でいいのか? あんまり威張ると、転んだ時の恥ずかしさも倍増だぜ」
ハウザーの顔がわずかに歪む。彼は激怒しているが、俺の挑発にも、これまでの俺の戦いぶりにもどこか困惑しているようだ。
「貴様のその軽口も、次で終わりだ!」
ハウザーは剣を振りかざし、再び地面から雷が奔流のように走り出す。
今度は逃げ道を塞ぐかのように周囲に電流が張り巡らされる。だが、俺はあえてその雷の真っ只中に踏み込んだ。
「ははっ、まるでお手本のような雷撃だな。でも残念、俺にはちょっと刺激が足りない」
驚愕の表情を見せるハウザーを前に、俺はさらに剣を構え、魔力を集中させた。支給品の剣は本来の耐久をはるかに超えて震えているが、それでも俺は気にせずに踏み込む。
「さぁ、豪剣様。次は俺の一撃、逃さないで受け止めてくれよ?」
俺は渾身の力を込めた一撃を放ち、雷の中を突き抜けていく。
その刃がハウザーの剣に直撃し、今度こそ彼の防御が一瞬崩れた。手ごたえが伝わり、彼の表情が苦痛に染まる。
「くっ……なぜだ、ただの兵士がここまで……!」
「だから言ったろ? ちょっと運がいいだけさ。まぁ、運だけでここまで来られるなら、俺も大したもんだけどな!」
さらに一歩踏み込むと、今度は支給品の剣が砕け散る音が響く。
剣はついに限界を超えて砕けてしまい、それを見たハウザーの表情に笑みが浮かぶ。
「はっ! 安物の剣を使うからこうなるのだ! これで終わりだ!」
「俺も常々そう思うよ。だが――」
勝ちを確信しながら剣を振り下ろすハウザーだが、俺は剣がなくても戦える。
目にも止まらない速さで振り抜かれた拳は、ハウザーの腹部へと吸い込まれ、鈍く重い音が響いた。
「こっちの方がもっと得意なんだ」
「――かはっ!」
肺の中の空気が吐き出され、吹き飛ぶハウザーは無様に地面を転がるも、地面を蹴り立てて体勢を整えながら、息を荒げている。その顔には驚きと痛みが交錯していた。
「ク……クソッ! 貴様、武器を使わずともここまで戦えるのか?」
俺は軽く肩をすくめ、無造作に拳を振って手のひらを叩く。
「まぁ、あんまり使うことはないけど、こういう状況では手っ取り早いんだ。やっぱ、拳が一番だろ?」
ハウザーは怒りに満ちた眼差しで俺を睨みつけ、剣を再び高く掲げた。雷がその刃に集まり、今度はこれまで以上に激しい力を感じさせる。
「貴様、私を侮っているのか⁉ この一撃で、貴様の命を確実に絶ってやる!」
雷鳴と共に、再度大地を裂くような力強い一撃が放たれる。
雷光が瞬時に俺に迫り、音速を超える速さでその刃が下ろされる。だが、俺はそれを見極め、冷静にその一撃を躱した。
「おいおい、まだそんな速い攻撃を繰り出せるのか? お前、かなり根性があるな」
俺は軽く身をひねり、ハウザーの剣が地面に刺さる瞬間を狙って、再び近づく。その隙を逃さず、今度は足を使って踏み込み、ハウザーの剣をすり抜けると同時に、鋭い一撃を彼の腹部に叩き込んだ。
「ぐっ……!」
ハウザーは痛みに顔を歪め、後ろに一歩下がる。だが、その目にはまだ戦う意志が宿っている。
「貴様……! こんな無名の兵士に、俺が敗れるなんてあり得ない!」
その言葉を聞きながら、俺は冷静に姿勢を整える。
「なんだ、まだ諦めないのか? だったら、もっと頑張ってくれよ」
ハウザーは、再び雷の力を集めて剣を振りかぶる。その力は、これまでよりもさらに強力で、空気が震えるほどだった。だが、俺は無駄に焦らず、冷静にその動きを観察する。
「まだまだ、そんなもんじゃ俺を倒せないぞ。いいか、雷の力もお前の力も、どんなに強くても、俺は負けない!」
その瞬間、ハウザーの剣が真っ直ぐに俺に向かって振り下ろされた。だが、俺はそれをかわし、見事にその一撃をすり抜けると、再び拳を繰り出した。ハウザーのガードが崩れ、強烈な一撃が彼の胸に食い込んだ。
「ぐはっ……!」
ハウザーはそのまま膝をつき、息を荒げながら力なく剣を握る。目の前で力を振り絞る姿が、どこか哀れに見えた。
「どうだ、豪剣ハウザー。お前がどれだけ強かろうが、俺が勝つと決まってる」
それでも、ハウザーは最後の力を振り絞って立ち上がろうとした。だが、その姿勢が次第に揺らぎ、ついに立ち上がることができずに地面に崩れ落ちた。
「これが、俺の限界か……」
その言葉を残して、ハウザーはとうとう動かなくなった。俺は一歩踏み出し、倒れた彼を見下ろす。
「まぁ、いい勝負だったよ。けど、これでお前の役目は終わりだな」
俺はハウザーが落とした剣を拾う。
「悪いな。これも仲間のため、生き残るためだ」
「……悔いはない。この首を取るといい」
周囲の兵士たちも、息を呑んでその様子を見守っていた中、俺は剣を横に一閃し、ハウザーの首が落ちた。
戦場に静寂が訪れる中、俺は深く息をついて、無名の兵士としての役目を全うしたのだった。
「さて、次はどうしようか……」
周りの敵を気にしつつも、まだ戦いは終わらない。
俺には守るべき仲間がいる。目立ちたくないが、今はそれが大事だ。
「行くか……」
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