第7話:【豪剣】ハウザー1

 ハウザーの一撃を防いだ瞬間、俺はわずかな安心感に包まれた。

 団長たちも無事で、再び立ち上がる力を取り戻しているようだった。しかし、ハウザーは決して簡単に引き下がる相手ではない。


「よくも俺の一撃を防いだな、小僧」


 ハウザーは忌々しげに睨みつけてくる。その眼には冷徹な光が宿り、次の攻撃を放つ隙を伺っているのが明らかだった。


「リク、助かった!」


 団長が感謝の言葉をかけてくれる。


「団長、エリアスとセリナを連れてここから撤退を」

「馬鹿なことを言うな! 相手は【豪剣】ハウザーだ!」


 エリアスとセリナも、一緒に戦おうと言ってくるが、三人とも限界に近く、これ以上戦うことは難しいだろう。


「団長、それにエリアスとセリナ。勇気は素晴らしいけど、命の無駄遣いはあんまりカッコよくないぞ。あんまり張り切りすぎると、戦場より病院でお世話になる時間が長くなるよ」


 その言葉に三人は黙ってしまう。

 少しして団長が重々しく口を開いた。


「分かった。ここは撤退しよう。だがリク、必ずヤツを――」

「わかってますよ。俺が倒しますから」

「頼んだ。任せた」


 団長はエリアスとセリナの方に振り返ると「私たちは撤退するぞ!」と声を上げ、有無を言わさず騎士たちに支えられて下がっていった。

 残ったのは一部の兵士たちと俺とハウザーのみ。しかし、敵味方誰も、俺たちに近づこうとはしない。


「悪い。待たせたね」

「なに。貴様と戦うためなら時間は惜しまない」

「おいおい、そんなに俺と過ごす時間が好きだったなんて、気づかなかったよ」


 ハウザーはその言葉に鼻を鳴らし、険しい顔をさらに引き締めた。


「下らん。そのような軽口、この場にふさわしくない!」


 吐き捨てるように言い、巨大な剣を構える。


「おっと、そんなに怒るなよ。歳取るとシワが増えるぞ」


 俺は笑みを浮かべつつ、構えを整える。もちろん、気を緩めるつもりはない。


「いいだろう。貴様の命の灯火、俺が一振りで消し去ってやる!」


 ハウザーは剣を高く掲げ、稲妻が刃に集まっていく。

 雷鳴のような轟音が響き渡り、大地が震える。


「やれやれ、まるで雷神だな。俺も神様に会えるとは思ってなかったよ」


 ハウザーは目を細めたが、俺の言葉に答えず、一気に剣を振り下ろした。その刃から放たれた雷が地面を走り、一直線に俺を襲う。


 俺は素早く横に飛び、雷を避けながらハウザーに接近。すかさず剣を振るい、彼の防御を崩そうとする。しかし、ハウザーも即座に対応し、巨大な剣で俺の剣を受け止めた。

 刃と刃がぶつかり合う甲高い音が響き、火花が散る。


「悪くない、だがそれだけか?」

「まだまだ、デザートはこれからだぜ」


 そう言って、俺は魔力を一気に拳に集中させ、さらに押し込む。ハウザーの表情が一瞬だけ驚愕に変わったが、すぐに冷徹な笑みに戻る。そして、彼もまたさらに力を込めてきた。


「小僧、何者だ? 名を名乗れ」

「第三騎士団所属の、ただの兵士さ。高名な豪剣様に名乗る名などない」

「ただの兵士がこれほどの力あるわけがなかろう! 王国の切り札か?」

「まさか! ただの兵士が切り札だなんて、王国も人手不足みたいだな」


 俺はやれやれと肩をすくめる。


「ふざけるな。貴様にその強さを与えた者がいるはずだ!」


 ハウザーの剣がさらに重みを増してくる。俺はそれを受け止めながら、軽く笑った。


「与えられた? いや、毎朝の筋トレと野菜たっぷりの食事のおかげだな。君もやってみるか? 力がつくかもよ」

「貴様、どこまで……!」


 ハウザーの顔が赤くなり、怒りが明確に見て取れる。俺はふっと微笑み、さらに押し返す。


「なぁ、無名の兵士にこれだけ熱くなれるなんて、俺のこと気に入ったってことか? でも男に気に入られても困るぜ」

「貴様にその冗談を言う余裕があるとはな……だが、それも終わりだ!」


 ハウザーは雷を纏った剣を勢いよく振りかぶる。しかし俺は動じず、軽く息を吐いて構えを取る。

 戦場に立っているのは、ただの無名の兵士だと分かっていないようだ。


「いいぜ、どうせここまで来たんだ。今夜はお前のためにこの無名の兵士がひと暴れしてやるよ」


 ハウザーは巨大な剣を振り下ろし、雷光が俺に向かってまっすぐ突き進んでくる。

 空気が裂け、肌がビリビリと震える。だが、俺は冷静にそれを見極め、一瞬の隙を突いて斜めに跳躍し、雷の軌道から外れた。


「ほぉ、躱すか」


 ハウザーが口元に不敵な笑みを浮かべるが、俺も負けじと応じる。


「残念だったな。せっかくの豪剣様の一撃だが、ここはただの無名の兵士が軽く受け流させてもらう」


 その挑発に、ハウザーの瞳がさらに鋭さを増す。


「ならば、もう一度試してやろう!」


 ハウザーは剣を大地に突き刺し、地面から稲妻が這い出し俺に襲いかかる。

 避けようにも周囲の全てが雷の渦に包まれていく。だが、俺は一歩も引かない。


「やれやれ、これじゃあ雷様のお散歩じゃないか」


 軽口を叩きつつも、身体に渦巻く力を剣に集めていく。

 ハウザーが雷を纏った剣を振りかぶったその瞬間、俺は剣を構え直し、わずかに魔力をその刃に込める。


「どうだ、王国支給の標準装備。これ一本でお前と戦っているんだ、笑えるだろ?」

「愚かな……そんな安物で私に勝てるとでも!」


 ハウザーが怒りに駆られて雷の一撃を放つ。

 地を裂くような威力の攻撃が迫るが、俺は素早く一歩を踏み込み、敵の一撃を躱して間合いを詰める。そして、剣を一閃。


「……嘘みたいだろ? これが安物の剣の威力さ」


 俺の一撃はまるで別物のように重く鋭く、ハウザーの鎧に衝撃が伝わった。その顔に驚きと苦悶の表情が浮かぶ。


「貴様……本当にただの兵士なのか……?」

「もちろん。ただし、ちょっと運がいい・・・・兵士なだけさ」


 ふっと微笑みを浮かべつつ、次の攻撃へと備える。


「……ならば、この俺が貴様を打ち砕いてやるまで!」


 再びハウザーの剣が構えられ、俺も戦闘態勢を取る。

 俺には護るべき仲間がいる。目立ちたくなくても、嫌でも目立つと分かっていても、ここで退く理由はない。


「さぁ、豪剣ハウザー。次は、俺のターンだぜ」

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