第5話:騎士道

「ほざけ! この帝国の将が一人、【豪剣】ハウザーに逆らう愚か者がどれほどの代償を払うか、教えてやる!」


 私は敵将の名を聞いて驚いてしまう。

 ハウザー。その豪剣の名は大陸に轟き、一撃は大地を割るとされている。

 そのような有名人が、この戦場に出てきているとは思わなかった。


「なら教えてほしいものだ。貴様の豪剣がどれほどのものかを」


 ハウザーの顔が険しく歪み、その巨大な剣が再び振り下ろされる。彼の剣技は見事だが、それ以上に圧倒的な魔力が込められていることが分かる。剣が振られるたびに、周囲の空気が震え、戦場に魔力の嵐が巻き起こった。


「ならば、その口が二度と開かないようにしてやろう!」


 ハウザーが魔力を解放し、刃を霧のような黒いオーラが包み込む。その攻撃は一撃ごとに尋常でない重さを帯び、避けるだけでも体力を消耗する。しかし、私は一歩も退かず、軽やかな足取りで攻撃をかわしながら反撃の機会を窺っていた。


「この程度の威圧で怯むとでも?」


 剣を前に構え、手に宿る青い光の魔力を徐々に高めていく。その青い輝きが私の体全体を包み、鋭い刃にさらに魔力が込められる。

 やがて私は空を切るように素早く動き、ハウザーの隙を狙って突きを繰り出した。


「蒼光剣ッ!」


 青い閃光が一瞬でハウザーの懐に迫り、彼の重装甲の一部を貫いた。しかし、彼は一瞬で反応し、全身に防御の魔力を纏うことで深手を避けた。


「やるな……! だが、まだまだだ!」


 ハウザーは自分の剣を地面に突き立てると、大地から黒い魔力を引き出し、周囲に結界を張った。結界内の空気が重くなり、闇のような圧力が私の体にのしかかる。


「ぐっ……!」


 彼は不敵に笑いながらその結界内で魔法を詠唱し、剣を振り上げると、巨大な闇の刃が私に向かって迫ってきた。


「喰らえ!」


 だが、私は動じなかった。目を閉じ、一瞬の静寂の中で集中を深めると、再び剣に魔力を込めた。

 輝く剣を、私は力一杯振るった。しかし拮抗も一瞬で、私は勢いよく吹き飛ばされて、無様に地面を転がった。


「うっ、ぐっ……」


 地面に転がり、メイリスは痛みを感じながらもすぐに立ち上がった。

 その瞬間、周囲の空気が一変する。ハウザーが勝ち誇ったように笑いながら剣を掲げ、その圧倒的な魔力をさらに強化しようとしているのが感じ取れる。


「どうした? それで終わりか、王国の犬どもが!」


 ハウザーの声が戦場に響き渡る。彼の魔力は膨れ上がり、まるで大地自体が彼の支配下にあるかのようだった。その威圧感に圧倒されそうになるが、メイリスはまだ諦めていなかった。

 ここで私が負ければ、王国軍は瓦解する。だから、負けるわけにはいかなかった。


「――ここで引き下がるわけにはいかない!」


 私は剣を握り直し、再び立ち向かおうとする。その時、ふと視界の隅に動きを感じた。

 ハウザーの背後に現れたのは、仮面を付けた二人組だった。


「メイリス団長!」

「加勢します!」


 仮面を付けているが、声からしてエリアスとセリナだった。

 二人はハウザーへと攻撃を仕掛けるも、躱され反撃を喰らう。


「くっ!」

「エリアス!」


 空中で体勢を整えたエリアスは、私の横へ着地した。セリナも着地して、武器を構えて警戒している。


「エイシアス、大丈夫?」

「うん。あの人、強い」

「見るだけでわかるよ」


 私はどうして二人が来たのか尋ねる。


「二人とも、どうして? 作戦は?」

「リクさんが、加勢に行くべきだといって、私たちを送りました」

「リクさんは今、作戦を遂行すべく動いています。それまで耐えれば私たちの勝利です」


 エリアスとセリナの言葉に、私は話していたことを思い出す。

 リクたちの作戦は、最初に敵本隊の後方からの奇襲攪乱が主な目的だ。攪乱後は、任せていたが、まだ何か考えがあるのだろう。


 ハウザーの魔力はますます膨れ上がり、彼の剣から放たれる闇の刃は、まるで大地を引き裂くような迫力で私たちに向かってきた。エリアスとセリナが素早く反応し、それぞれの魔法で攻撃を防ごうとするが、ハウザーの力は予想以上で、豪剣の名は伊達ではなかった。


「くっ、強い……!」


 エリアスが鋭い息を吐きながら、青白いオーラに包まれた剣を振り上げ、セリナは光魔法でサポートを試みる。しかし、ハウザーの攻撃の圧力はあまりにも強大で、二人も完全に防ぐことはできない。セリナの魔法は一瞬で弾き飛ばされ、エリアスも足元をすくわれ、地面に膝をついてしまう。


「エリアス!」

「大丈夫だ、セリナ。すぐに立て直す!」


 エリアスはすぐに立ち上がり、再び戦いに加わろうとするが、ハウザーの隙を見つけるのは容易ではない。それでも、彼女らは諦めず、再び立ち向かう姿勢を見せる。


「さすがだな、王国の犬ども。しかし、それではまだ足りない!」


 ハウザーは冷笑を浮かべ、再度剣を振り上げる。その瞬間、空気が震え、彼の魔力が最高潮に達した。魔力の嵐が戦場を揺るがす中、私たちの息が詰まるような緊張感が広がった。

 膨大な魔力を前に、エリアスとセリナが地面に尻もちを着いてしまっている。

 少女二人を前に、かっこ悪い姿は見せれない。


「二人ははやく撤退するんだ」

「メイリス団長⁉」

「団長だけを置いて逃げれません!」


 ここまで他人想いなのは、勇者である前にリクの教育の賜物なのかもしれない。

 思わず笑みを浮かべてしまう。


「よく聞け、二人とも」


 私は二人に告げる。


「騎士は、ただ剣を振るうだけではない」


 ――騎士は真実のみを語り、その言葉が信念となり、心に勇気を灯す。

 ――騎士の剣は弱き者を守り、その力は善と仲間を支える。

 ――騎士はその怒りをもって、悪しき者と強き者を挫く。


「そのすべてが私の誇りであり、それこそが私の信じる騎士道だ」



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