第4話:強敵、現る!
遠くから激しい金属音や叫び声が響き、王国と帝国の本隊がついに激突していることが分かった。森から姿を現し、戦場の端に潜みながら様子を伺う。敵も味方もぶつかり合い、剣や槍が交錯する激戦の中で、各部隊が指示に従って配置に付いていた。
「リクさん、どうしますか? ここから一気に攻め込むのか、それとも敵将の動きを待つのか?」
エリアスの問いかけに「いや、少し様子を見よう」と俺は答え、戦場を見据えた。
奇襲がうまくいったおかげで王国軍が優位に立っているようだが、帝国は依然として組織的な動きを見せ、踏みとどまっていた。
その時、戦場の中央がざわめき、何かが近づいてくるのがわかった。兵士たちが次々と動きを止め、その方向に視線を向けている。
重厚な鎧をまとった一人の男が、堂々と敵陣の前に現れたのだ。
「敵将のお出ましか。この戦況に我慢できなくなった指揮官が動かしたか?」
帝国の将ともなれば、一人で千人分の活躍ができ、冒険者ランクでいえば、Sランク並みの強さを持っている。
その男は帝国の象徴とも言える重装甲を纏い、鋭い目つきでこちらの陣形を見渡していた。周囲の兵士たちが恐れを感じているのが明らかで、彼が持つ圧倒的な威圧感が場を支配していた。敵将は長剣を抜き、まるで挑発するかのように剣を王国軍に向けた。
しかし、こうも早く動かすのは予想外だった。王国側にも混乱が広がっており、このままでは士気が下がるだろう。
俺たちが出て、彼を止めることは簡単だ。しかし、それでは作戦に影響が出ることになる。
とはいっても、このまま放っておくわけにもいかない。
「どうするか……」
すると、王国軍側でざわついた。兵士が道を開け出てきたのは、我らが第三騎士団団長メイリスであった。
「なんで団長が……」
本当なら後方で控えて指揮をし、有事に対処するのが団長の役目だ。
まあ、敵将を止められるのは俺と勇者、団長くらいだろう。
「メイリス団長、大丈夫でしょうか?」
セリナが不安そうな声で聞いて来る。
「もしもの場合は、二人が加勢するように。ただし、無理はしないことだ」
「「はい!」」
そこから俺たちは、戦況を有利に進めるために、作戦を構築していくのだった。
◇ ◇ ◇
(メイリスside)
地図の上に配置された駒が、リクたちの奇襲がいかに効果を上げているかを示していた。敵本隊の後方に動揺が広がっているおかげで、王国軍は前線で優位に立っている。
しかし、戦局が進むにつれて、帝国軍は徐々に体勢を整え始め、再び士気を取り戻しつつあった。
「さすがに帝国軍もそう簡単には崩れないか……」
私は思わず独り言を呟く。敵将の登場によって帝国軍の動揺は一時的だったが、それでも指揮官としてここで負けるわけにはいかない。
「全軍に伝令。現在の位置を保持しつつ、中央の敵を突破する準備に入る」
伝令が次々と兵士たちに伝わる中、ふと、遠くの戦場に視線を向ける。
そこで目にしたのは、帝国の敵将と、勇敢にもそれに立ち向かおうとする自軍の騎士たちの姿だった。
彼の強大な力に対抗できる者は限られているが、ここで押し返さなければ勝利はない。
「今こそ、私も前線に出る時か」
覚悟を決め、私は身につけた甲冑の締め具を確かめる。普段は指揮に専念しているが、今は自ら剣を取って戦場に立たなければならない時だ。
「メイリス団長、前線へ?」
「ああ。指揮権は参謀の貴殿に譲渡する。あとは任せる。不利と判断したら、すぐに伝令を飛ばして撤退の指示を出せ」
「はっ!」
近くの兵士たちは私に無言で敬礼し、後方からの支援に回る準備を整えていた。
「全員、私に続け! ここで帝国軍を押し返す!」
私の号令と共に、騎士たちが奮い立つ。こうして、私は自らの手で帝国の敵将に対峙するために、一歩ずつ前進を開始した。
敵兵を蹴散らしながら戦場の中央に近づと、敵将が私に気づき、こちらに視線を向けた。鋭い眼光に、並々ならぬ戦士としての自負と力が感じられる。
「王国の指揮官か。貴様もまた、ここで命を散らす覚悟か?」
「貴様に挑むために来たわけではない。この戦いで王国の民を守るためだ」
互いに視線を交わし、沈黙が流れる中、私は剣を構えた。次の瞬間、敵将は一気に距離を詰め、大剣を振り下ろしてくる。その一撃は鋭く、重い。かろうじて受け流したものの、その威力に体が震える。
「さすがに帝国の将ともなると、簡単にはいかないか……!」
「女にしては強いな。どうだ? 俺の女になるなら見逃してやる」
敵将の侮蔑的な言葉に、わずかに眉をひそめながらも、にやりと笑って見せた。
「つまり私を"手なずけられる"と思ってるわけか? 帝国の将ってのは案外お花畑のようだ。貴様を満足させるくらい暇なら、他にもっと面白いこと探す」
その軽口に敵将は顔を歪め、明らかに苛立ちを見せた。
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