第12話:再び

 それからしばらく魔物の間引きをしてから、俺たちは王都に戻った。

 二人は先に休むように言い、俺は団長へと報告していた。


「ふむ。原因は縄張り争いに負けたハイオーガだったと」

「はい」


 俺はハイオーガの魔石を団長に手渡した。


「ハイオーガはリクが一人で倒したのか?」


 俺は首を横に振って否定する。


「いえ。ハイオーガはエリアスとセリナの二人に相手させました。目立った傷を負うこともなく、ハイオーガを討伐しましたよ」

「なっ⁉ ふ、二人だけで相手させたのか⁉」


 驚く団長の問いに、俺は説明する。


「二人はBランク冒険者の実力を持っています。最初は初めての実戦ということもあり、めちゃくちゃでしたが、実戦を重ねていくうちに慣れ、オークの群れを相手にも戦うことが出来ました」

「しかしだな、勇者にもしもがあれば……」

「大丈夫ですよ。俺が見ていましたので」


 俺のことをジッと見据える団長は、ため息を吐いた。


「まあ、お前がいれば安心か。続きを」


 俺はそのままハイオーガとの戦闘を話し、十分ほどで終えた。

 すると団長は少し考えた素振り見せ、俺に問うてきた。


「今の二人の実力は?」

「個人でならギリAランクほどかと。あとは魔法とかをもう少し鍛え、戦闘に組み込めるようになれば大丈夫じゃないですかね。俺は魔力の扱い方が分かっても、魔法は使えませんから」

「そうだったな。しかし、魔法もかなりの腕だと聞いている」

「教えられる範囲ですよ。勇者って、魔法戦士のイメージがあるので、それを教えていましたし」

「魔法戦士……?」

「はい。戦士と魔法使いを足して二で割った感じの戦闘スタイルですよ。難しいですが、極めるとかなり強いですよ」

「そうか。参考にしよう」

「それがいいかと。では、報告も終わったので帰って寝ますね。団長もほどほどに」


 俺は兵舎に戻って寝るのだった。

 一週間ほどすると、勇者は魔法を専門的に鍛えると言うことで、魔法師団での訓練となった。

 つまり、俺はお役目御免と言うことだ。

 それから二週間ほどが経過したある日、ヴァルガン帝国が再び侵攻を開始してきたのだ。

 国境が再び戦場と化したのだ。


 そんな中、団長に呼び出された俺は、執務室へと向かっていた。

 ノックをして入ると、ニコニコした団長が待っていた。


「やあ、リク」

「お呼びですか?」

「数カ月という短い間だったが、勇者の教育ご苦労だった」


 俺は「いえ。それほどでも」と無難に返事をする。もともとさっさと終わらせ、休暇を満喫する予定だったのだ。

 団長は続ける。


「この短期間で勇者は急成長した。陛下も大変喜んでいた」

「それは良かったです。兵士の私には荷が重かったですけどね」

「謙遜するな」

「謙遜だなんて、そんなぁ……ハハッ」


 愛想笑いを浮かべるが、団長に睨まれる。


「まったく。昇進が嫌いということで、褒賞だけ用意しているそうだ。今月の給金は期待していい」

「ありがとうございます。なら、久しぶりの休暇は満喫できそうですね」


 数ヵ月ぶりの休暇だ。のんびりだらだらしてやる!


「なんのことだ?」

「……へ?」


 ま、待ってくれ。この流れはまさか……


「帝国が攻めてきているのは知っているだろう?」

「え、ええ……魔王が復活したと言うのに、一致団結できないだなんて、とんだ迷惑ですね」

「まったくだ。そこで、勇者を短期間で急成長させたリクは、上層部でも噂になっていてな」


 は、話しの流れが不穏過ぎる……


「う、嬉しいけど、目立ちたくないので」

「そういうな。国境は今、帝国からの進攻を防いでいるが、戦力が足りていない。我が第三騎士団にも要請が来ている。今回、リクには参謀本部から直接指令が届いている」

「そんなの戦場行き確定じゃないですか! 困りますよ!」

「君の実績が評価されたということだ。喜ぶといい」


 素直に喜べない。俺は平凡に生きていきたいだけなのに……


「では指令だ。リク、勇者二人を連れ、我ら第三騎士団と共同して、帝国主力部隊を率いる敵将を撃破せよとのお達しだ」

「無茶言わないでくださいよ! それにエリアスとセリナの二人は断らなかったのですか⁉」


 相手は魔物じゃなくて人間だぞ⁉ しかも年端も行かない少女を戦場に行かせる気か⁉


「二人は協力的とのことだ。そもそも、二人から君がいればと言っていたのだ。諦めたまえ」

「そんなぁ……俺の休暇が……」

「さあ、準備したら出発だ。期待しているぞ」


 ポンと肩を叩き笑顔をみせる団長。

 こうして平凡な兵士である俺は、再び戦場へと連れ戻された。


 ――二週間後。

 目の前には帝国との国境があり、戦いが繰り広げられていた。

 斬られて死ぬもの、魔法で焼かれて死ぬ者の悲鳴が聞こえてくる。


 その光景を、俺の隣で青い顔をして眺めているのは、勇者候補であるエリアスとセリナ。

 そんな二人の気持ちを前に、俺は青く澄み渡った空を見上げて呟いた。


「ただいま。クソッたれな戦場さん……」



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