第11話:実戦4

 俺たちは静かに歩を進めながら、迫りくる気配に神経を研ぎ澄ます。闇が深まる中域と深域の境界を越え、森の密度がさらに濃くなる。

 前方には、先ほどよりもさらに強い魔物の気配が漂っている。

 エリアスとセリナの呼吸が速まっているのがわかる。俺が二人の後ろに目をやると、彼らの顔に緊張の色が浮かんでいた。


「大丈夫か? 一度呼吸を整えろ。焦っても良いことはない」


 俺の声に、二人は小さく頷きながら深呼吸を繰り返す。少しずつだが、落ち着きを取り戻しているようだ。

 ふと、目の前の茂みがガサリと音を立てた。次の瞬間、巨大な影が姿を現す。

 ハイオーガ。オーガの上位種で、身の丈は人間の倍以上、筋肉質な体は凄まじい力を秘めている。目は血のように赤く光り、牙をむき出しにしているその姿は、まさに悪夢そのものだった。


「リ、リクさん……」

「これは流石に……」


 ハイオーガの迫力に圧倒されつつ、エリアスとセリナの背中を見守る。彼女らは恐れを抱きつつも、決意を固めているのが伝わってくる。

 エリアスはその長剣をしっかりと構え、魔法の力を秘めた気配を感じさせる。

 一方、セリナは双剣を巧みに操り、身軽に動き回る姿が頼もしい。


「行け、エリアス、セリナ!」


 俺の声に呼応して、エリアスが前に踏み出す。長剣を構え、彼女の目は真剣そのものだ。

 力が周囲に漂い、彼女の剣先から青白い光が放たれる。エリアスは、その一撃でハイオーガを牽制しようとしているのだ。


 すると、長剣から魔法の波動がハイオーガに向かって放たれる。

 その瞬間、ハイオーガがその攻撃に驚き、少しよろめく。だが、それでも巨体は揺るがない。むしろ、さらに怒りを増してこちらに向かってくる。


「セリナ、今!」


 セリナがその言葉を受けて、素早く動き出す。

 ハイオーガの攻撃を躱し、側面に回り込む。彼女の動きはまるで舞いように、軽やかに動く。俺はその姿を見守りながら、心の中で応援する。


「――はぁあ!」


 セリナの声が響き、彼女はハイオーガの腕に双剣を突き立てた。

 刃がハイオーガの硬い皮膚に食い込む。その瞬間、ハイオーガが不気味なうめき声を上げ、振りほどこうとするが、セリナはすぐに後ろに飛び退いて距離を取った。


 俺は二人の奮闘を見つめる。

 エリアスがハイオーガの注意を引き付けている間に、セリナが側面から攻撃を仕掛ける。

 この連携は見事だ。二人は互いに補完し合いながら戦っている。


 しかし、ハイオーガは容赦なく反撃に出る。

 今度はその巨体を振り回し、エリアスを狙った。彼女はすぐに反応し、身を躱すが、その動きはまだまだ危なっかしい。


「気をつけろ、エリアス!」


 思わず声を上げた瞬間、ハイオーガの一撃が地面を揺らし、周囲の木々が揺れた。

 だが、エリアスは冷静さを失わず、障壁を展開する。

 青い光の幕がエリアスの周囲を包み、ハイオーガの攻撃を受け止める。

 だが、力強い一撃にはさすがに衝撃が走り、彼女は後ろに押し戻される。その隙に、セリナがハイオーガの足元を狙って斬りかかる。


「ここ!」


 セリナの声が力強く響く。

 彼女はハイオーガの足に双剣を叩きつけ、引きずり倒すことを狙っている。その計画は成功し、ハイオーガはバランスを崩し、一瞬の隙が生じた。


「エリアス、今しかない!」

「任せて!」


 その瞬間、エリアスはすかさず長剣を振りかぶり、全力でハイオーガに向かって突進する。彼女の剣先に魔力が集まり、光が眩しく輝く。


「これでトドメ!」


 エリアスの一撃が放たれ、ハイオーガに直撃する。

 魔力の波が広がり、周囲の空気が震える。その衝撃に、ハイオーガは絶叫し、地面に倒れ込む。


「やった、やったわ!」


 セリナが歓喜の声を上げ、エリアスも息を切らせながら立ち上がる。

 だが、俺はまだ安心しない。ハイオーガが完全に倒れたわけではない。二人の表情には喜びが見えるが、油断してはいけない。


「言ったはずだ! 最後まで油断するな!」


 俺の言葉に、二人はすぐに真剣な表情に戻る。そう。ハイオーガがまだ動いているのだ。

 俺は後ろから見守りながら、状況を冷静に見極める。

 再び立ち上がったハイオーガは、うめき声を上げながらエリアスとセリナに向かって襲いかかる。

 だが、俺は確信していた。彼らはこの戦いを乗り越えられる。二人は既に一緒に戦う仲間として成長しているのだ。


「セリナ!」

「エリアス!」


 二人の剣が輝きを増す。二人はハイオーガの攻撃を躱し、最後の一撃を放った。


「「これで終わりよ!」」


 剣がハイオーガの胸部を貫いた。ハイオーガは、二人へと攻撃しようとして、力尽きたのか地面に倒れ、生命活動を停止させた。

 二人は見事、ハイオーガを討伐したのだった。


「二人とも、よくやった」


 俺は駆け寄ってきた二人の頭を優しく撫でる。


「えへへっ、全部リクさんのおかげです!」

「ふふっ、リクさんありがとうございます!」


 喜ぶ二人を見て、俺は「そろそろ教育も終わりかな」と思うのだった。



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