第10話:実戦3
中域へと足を踏み入れてから少し。俺は魔力を波紋のように広げて索敵する。
奥の方で魔物の反応があった。さらに深く索敵を広げると、大きな魔力の反応が確認できた。
オークの比ではない、大きな反応。もしかしたら、活性化した原因はこれにあるのかもしれない。
「奥の方で大きな反応があった。恐らくAランクの魔物だろう」
「え⁉ なら戻ってすぐに応援を呼びに行かないと!」
「落ち着けエリアス。今の二人なら、ギリギリ倒せるはずだ」
「でもリクさん、私とエリアスで、Aランクの相手は……」
「ダメだったら俺が助ける。何事も挑戦だ。それとも、ここで逃げるのか?」
その言葉に二人の表情が強張る。何か思うところがあるのかもしれない。
エリアスがギュッと力強く拳を握る。
「私は、やります!」
「私も。勇者なら、みんなを守れるくらい、強くならないと!」
「ははっ、なら行くとしよう。中域も普段より多い。間引きしながら、奥の魔物を倒す。いいな?」
「「はい!」」
二人の表情は真剣だ。
俺たちは中域の魔物の間引きをしつつ、反応があった奥へと進んでいく。
オークとの戦闘も何度かこなし、今では一人で三体の相手を出来ていた。元々これくらいの強さはあったので、驚くことでもない。
奥へと進み中域と深域の間までやってきた。鬱蒼とした森は、どこか不気味に感じる。周囲には魔物の気配が多くなり、これが溢れたら、王都や近隣の森を襲うことになる。
「気を引き締めろ。いつ襲ってきてもおかしくはない」
俺の言葉に二人は頷く。程なくして俺は魔物の気配を感じ取った。ヴォルカウルスという、狼型の魔物の群れだった。数は十五匹と、少し多めだ。
「半分は俺がやる。残りは任せていいな?」
「「任せてください!」」
二人は剣を構える。
「なら、任せた」
俺は一気に詰め寄り、腰にぶら下げている支給用の剣を抜き放ち、一瞬で三匹を仕留める。
続けて強化した蹴りで吹き飛ばし、一匹にぶつかる。そこに剣を投げて串刺しにする。これで二匹。残り五匹だ。
左右から襲い掛かる二匹に対して、俺は一体を強化された拳で殴り、もう一体の攻撃を横に飛び回避する。
回避先に合った、先ほど投げた剣を引き抜き、振り返り様に先ほどの一匹を斬り飛ばす。
剣に魔力を流して強化し、一瞬で残り三匹を仕留めた。
剣に付着した血を振り払い、鞘に納める。
二人を見ると、三匹を倒し終えたところで、残り二匹を二人が仕留めた。
「お疲れ」
「はい。ですが、私とセリナが五匹と戦っている間に、もう十匹も倒したんですね」
「リクさんは強いですね。兵士の強さじゃない」
「俺はちょっと強いだけの兵士だよ」
そんな俺の言葉に、二人は「ちょっとどころじゃ……」と呟いていたが知らん。
俺はただの兵士なんだ。
「んじゃあ、行くぞ」
さらに奥へと進む。先ほどの大きな気配に近づいて行く。程なくして、二人がビクッと体を震わせる。
この漂ってくる気配に気付いたようだ。
「なんですか、この気配……」
「つ、強い……」
あるよね。戦わなくても分かる、強い気配って。
「気を引き締めろ。Sランクに近い、Aランクの魔物だな」
「え、Sですか? どうしてわかるんですか?」
エリアスの問いに、セリナも隣で頷いている。
まあ、これは慣れるしかない。
「以前、第三騎士団で間引きに行ったとき、Sランクの魔物が出てきてな。被害を出しながらもなんとか倒せたんだ」
あの時はきつかった。俺はまだ13歳で、あの戦いについて行くので精一杯だった。
なんとか死なないようにしたが、それでも怪我負った。今なら遅れを取るつもりはないし、なんなら瞬殺できるだろう。
「まあ、その時の気配よりは弱いからな。とにかく、原因はあれだ。Sランクなんて、本来はもっと深い森に生息し、縄張り意識を持っている。なら、あの魔物は追いやられてきたと推測した方がいい」
「なるほど……」
「もう経験ですね」
「ああ。だから、二人にはその魔物を倒してもらう」
「「えぇ⁉ 無理ですよ⁉」」
すぐに否定するんじゃない。
それに、倒せると俺は踏んでいる。
「お前たちならやられる。そんなビビッてたら、魔王だって倒せないぞ? 人類を救うなんて夢のまた夢だな」
二人は俯いてしまう。
「とにかく。俺は二人なら勝てると思って、そう言っている。死なせるようなことはさせない」
「わかりました。期待に応えて見せます!」
「私も、頑張ります!」
「その意気だ。なら、行くぞ」
俺たちは、その気配に向けて歩を進めるのだった。
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