第9話:実戦2
二人の表情は自信に満ちている。
特にエリアスは、剣を手にしているその姿が少し頼もしく見える。
「少しは勇者らしくなってきたじゃないか」
俺が褒めると、二人の顔がパッと明るくなった。
「リクさんのおかげです!」
エリアスは照れくさそうに笑った。
一方、セリナは火の魔法の詠唱を何度も試行錯誤していたが、やっと自分の魔法に
自信を持てたようで、「次はもっと大きな魔法を打つわよ!」と意気込んでいる。
彼女のその姿勢はとても素晴らしい。
「お、いいね。その意気込みでいこう。でも、焦りすぎて失敗しないように」
俺は注意を促す。自信を持つのは大事だけど、実戦は緊張感が必要だ。
森の中は、薄暗い緑の世界が広がっている。
周囲は静まり返り、さっきの戦闘の余韻が残っているかのようだ。魔物が活発化しているとの報告もあったが、今は静けさが不気味に感じられる。
「次は何が出てくるんだろう?」
エリアスが興味津々で尋ねるので俺は少し考える。
「ゴブリン以外にもコボルトやボア、オークの報告もある。注意して進もう」
「オーク……それはちょっと怖いですね」
セリナが不安そうに言う。
「でも、リクさんと一緒なら大丈夫!」
彼女は元気を取り戻し、俺もその言葉にホッとするが、あまり俺に頼ってほしくないのも事実だ。
俺たちは再び歩き出し、しばらく進むと、少し開けた場所に出た。すると、木の陰から何かの影が見えた。
「また何かいるかも!」
エリアスが少し緊張しながら、剣を構える。
「落ち着け、今度は計画的にいこう」
俺は指示を出す。二人も頷き、周囲を観察し始める。
影から出てきたのは、今度はコボルトだった。尻尾を振りながらこちらを見ている。
「リクさん、私が行きます!」
「待て! 焦るな!」
俺が叫ぶも、エリアスの勢いは止まらない。俺は彼女の後を追い、セリナも魔法の準備をしている。やがて、エリアスがコボルトに剣を振り下ろし、見事に一撃を決めた。
「倒しました!」
エリアスは興奮気味に言い、セリナも彼女を褒めて笑顔を向ける。
「次は私の番ね!」
セリナが叫ぶと、魔法の詠唱を始める。前回のように焦らず、落ち着いてやっているのがわかる。その姿を見ながら、俺は彼女の成長を嬉しく思った。
森の奥深くに進むにつれて、二人の連携も徐々に良くなってきた。ゴブリン、コボルトと、魔物を倒すたびに自信を持つ二人の姿を見ていると、俺も自然と笑みがこぼれる。
「この調子でいけば、すぐに魔物の活性化の原因を突き止められる」
俺は二人を鼓舞する。
俺の発言に、二人は真剣な表情で頷いた。
その瞬間、背後から何かが飛び出してきた。
「えっ、今度はなに⁉」
「なに⁉」
驚くエリアスとセリナの前に現れたのは、報告にあったオークだった。
幸いにも一体だけなので、軽く説明をする。
「オークは動きが鈍いが、力がある。一人で勝てる相手だが油断はするなよ。今回は連携の訓練だ。俺と模擬戦していた時の連携を意識するんだ」
「「はい!」」
そうして二人は飛び出した。
先制攻撃を行ったのは、セリナの魔法だった。火球が飛んでいくも、それに気付いたオークは躱してしまう。
しかし、躱した先に居たのは、剣を構えるエリアスであった。
懐に潜り込み、身体強化を施した一撃がオークの腹を斬り裂いた。しかし、傷は浅かった。
エリアスへと攻撃が振るわれるが、すでに距離を取った後であり、空振りで終わる。
そんな隙をセリナが逃すわけがなかった。身体強化を施し、オークに一気に詰め寄って剣を振った。
振るわれた剣が首元へと吸い込まれ――噴水のようにオークの血が噴き出し崩れ落ちた。
他に魔物がいないことを確認し、ふぅと息を吐いた。
それでも油断していないので、教えたことはしっかりと実践しているようだ。
「おめでとう。今は周囲に敵はいない」
「やりました!」
「エリアスが気を引いてくれたおかげだよ!」
うんうん。いいことだ。この調子でもっと強くなってくれれば、俺の役目は終わりだ。
「目標は一人で、余裕で倒せるようになることだな」
「「頑張ります!」」
そこから何度も戦闘が続き、数時間ほどで複数のオークを相手できるようになっていた。
これなら中域でも安全に間引きが出来るだろう。
問題は、まだ中域じゃないのにオークが出来たことだ。少し、警戒した方がいいだろうな。
そのことを二人に告げる。
「中域でもないのにオークがこんなに現れた。常に警戒しながら、間引きをする。いいな?」
二人は静かに頷いた。
それを確認し、俺たちは中域へと足を踏み入れた。
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