第8話:実戦1

 森に向かう道すがら、俺は二人に注意事項を話しながら、周囲の様子を観察した。

魔物の活動が増えているということは、何かしらの原因があるはずだ。今後の行動を考えつつ、無事に目的地にたどり着くことを祈る。


森の入口に到着すると、そこにはいつもとは違う静けさが広がっていた。

普段は小動物たちの音が響くはずだが、何も聞こえない。エリアスとセリナは少し緊張した面持ちで、俺の後ろについてくる。


「ここから先は、慎重に進もう。魔物がいるかもしれないから」


俺が注意を促すと、二人は気を引き締め「はい!」と声を揃えて返事した。

 俺たちはゆっくりと森の中に足を踏み入れた。やがて、薄暗い樹々の間を進むうちに、何かの気配を感じ取った。


「リクさん、何かいる気がします!」


セリナが耳を澄ませていた。

どうやらあの気配を感じ取ったようだ。中々いい感覚をしている。

遅れてエリアスも気付いたようだ。初めてにしては上々だろう。


「良く気配に気付いたな。行動を止めて、隠れよう」


俺たちは茂みに身を隠す。

静寂の中で、足音が近づいてくるのを感じる。

 緊張が走る瞬間、前方から一匹のゴブリンが姿を現した。


 ゴブリン。魔物の中では最弱の部類に入る。

 ゴブリンが姿を現すと、エリアスが息を呑み、思わず小声で「ひゃっ…!」と驚いてしまった。

その声を聞いたゴブリンも「あれ?」という顔でこちらを振り返る。


「あ、バレた?」


俺が苦笑いを浮かべると、セリナはすぐに魔法の詠唱を始めていた。

セリナは「ええっと、ええっと…!」と詠唱をゴチャゴチャと混乱させているのが少し可愛い。

「セリナ、詠唱! それ火炎魔法じゃなくて氷結のやつになってる!」


俺が小声で教えると、彼女は「そ、そうでした!」と慌てて詠唱をし直し、ゴブリンに向かって火の玉を発射した。

その火の玉は、ゴブリンに当たる前に地面に衝突し、土煙を上げるだけで終わってしまった。


「うっ、あれ? 当たらなかった?」


セリナが困惑する中、ゴブリンは「なんだこりゃ?」とでも言いたげにこちらをじっと見ている。


「ちょ、ちょっと待って、私がやる!」


エリアスが勇気を振り絞り、剣を振りかざして突撃。しかし、剣がすっぽ抜け、つるっと滑ってその場でぐるぐる回る始末。


「あ、あれ? なんで剣が……!」と焦るエリアスに、俺は苦笑いしながら背後から肩をポンと叩いた。


「ほら、落ち着いて」


その瞬間、ゴブリンが目の前で「チィッ!」と舌打ちし、牙をむいて突進してくる。


「わーっ! 待って待って! リクさん、助けてー!」


エリアスが叫ぶも、俺はニヤリと微笑み「まあまあ、いい練習だろ?」と少し離れて見守ることにした。


「が、頑張ってエリアス!」


セリナが応援しながらも魔法の詠唱に再チャレンジ。しかし今度は詠唱が長すぎて、エリアスがひいひい言いながら逃げ回っている間に、まだ魔法が完成していない。


「ちょっと、まだー⁉」


エリアスが助けを求める。

俺はゆっくりと歩み寄り、無造作に片腕を伸ばしゴブリンに魔力で強化したデコピンをした。

 デコピンを喰らったゴブリンは、頭部を破裂させて絶命した。


「で、デコピンで……って、もっと早く助けてくださいよ……!」


エリアスは半分泣きそうな顔をしていた。


「いやいや、実戦ってのはこんなもんさ。何事も経験だ」


俺が肩をすくめると、セリナは少し悔しそうにしていた。


「ええっと…魔法がまだできてないのに終わっちゃった……」

「二人とも、実力ではBランク冒険者並みはあるんだ。もっと落ち着け。ゴブリン一匹にこれだと、先が思いやられるぞ?」

「「うっ……」」


 これが勇者か? と呆れてしまう。

だがしかし、二人にとっては初めての実戦だ。ゆっくり実戦の緊張感に慣らしていけば、大丈夫だ。


「次は一人ずつやっていく。いいな?」


 二人はコクリと頷いた。

 程なくして、再びもう一体のゴブリンが現れた。

 今度はエリアス一人だ。


「いいか、エリアス。いつもの訓練を思い出せ。冷静になるんだ」

「んじゃあ、行ってこい」


 そして、今度はエリアスとゴブリンの戦闘が始まった。

 エリアスは落ち着いてゴブリンの攻撃を避け、胸を突いたことで倒した。


「た、倒しました!」

「おめでとう。喜ぶのはいいが、警戒を解くな。次に敵がどこから襲ってくるか分からないからな」

「わかりました!」

「さて、次はセリナだな。魔法もいいが、今は近接戦を慣れるように」

「はい!」


 気合いを入れるセリナだったが、この後もう一匹を見つけて無事に倒すことが出来た。

 その後も戦闘を続け、無事にいつもの調子を取り戻すことが出来た。

 んじゃあ、本格的に間引きを始めて行こうかね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る