第7話:ピクニックみたいなものさ

 勇者たちの訓練を始めてから一カ月ほどが経過した。

 見ていて思ったが、勇者の成長は早い。

 今では第三騎士団の騎士を相手に、余裕で勝利を収めていた。

 そんな中、俺は一緒に団長の執務室に呼び出されていた。


「よく来たなリク」

「なんでしょうか?」

「その前に勇者はどうだ?」

「凄い成長速度ですね。もう騎士を相手に余裕ですよ。冒険者のランクでいうなら、Bランクは余裕であると思いますよ」


 冒険者はDランクから始まり、最高はAランク。その上に規格外であるSランクが存在する。

 BランクとなればAランクの一個手前であり、かなりの強者に入るだろう。


「なら、そろそろ実戦か」

「ですね。考えていましたが、時期をどうしようかと悩んでいました」

「ふむ。なら、王都近郊の森で魔物が活性化している。ちょうどいいので間引きをお願いしたい」

「間引き……」


 王都近郊の森ともなれば、そこまで強い魔物は存在しない。しかし、それは浅ければの話しだ。先ほどの話しだと、浅い森でも多くいるのだろう。


「もしかして、冒険者ギルドから報告が?」


 俺の言葉に団長は頷いて説明した。


「報告が上がったのは一週間ほど前だ。今も冒険者が調査を続けているが、浅い場所でも魔物が多く発見されている。ゴブリンやコボルト、ボアがほとんどだが、中にはオークの存在も確認されている」


 オークか。なら、森の中域に何かあるのかもしれない。オークは普段、中域に生息しているCランクの魔物だ。群れるとBランク指定される。

 まあ、今の二人なら大丈夫だろう。何かあれば俺が対応することになるが、そこは我慢だ。


「わかりました。間引きしながら、中域も見てきます。今の二人なら大丈夫だと思うので」

「わかった。危険だと思ったら引き返してくれ」

「まあ、ピクニックだと思って気楽にやってきますよ」


 すると団長は呆れた表情を向けてきた。

 どうせピクニックだよ。のんびりやらせてもらうさ。良い感じに可もなく不可もなくの調査結果を見せればいいんだ。


「好きな時に始めてくれ」

「わかりました」


 俺は一礼して執務室を後にする。そのままエリアスとセリナが待っている訓練場へと向かう。

 訓練場に到着すると、二人で模擬戦を行っていた。

 しばらく待っていると終わったので、飲み物とタオルを渡す。


「お疲れ様」

「あ、リクさん! ありがとうございます!」

「ありがとうございます」


 二人は俺にお礼をいい、タオルで汗を拭くと飲み物を飲む。

 落ち着いたのか、団長に何を言われたのか聞かれたので、実戦のことを話した。


「王都近郊の森で魔物の活性化ですか……」


 エリアスが深刻そうな表情を浮かべている。

 そこまで深刻じゃないよ。


「今は冒険者が間引きをしている。放置したら近隣の街や村に被害が出る。だから準備を整えたら俺たちも間引きをしにいく。ついでに森の中域まで行って活性化の原因調査だ」

「わかりました! いつ行きますか?」

「早い方がいいですね」

「明後日には出発する。初めての実戦だ。明日は十分な休息を取るように」


 ここで勇者に怪我でもされたら困る。


「わかりました。明日は休息ですね!」

「私も準備を整えておきます!」


エリアスが元気に答え、続けてセリナが意気込みを見せた。彼女らの反応に、俺も少し安心する。勇者たちが実戦に向けて気を引き締めているのが伝わってくる。

 これで気楽にいたら注意していたところだ。


「さて、明後日までに装備や食料の準備を進めておこう。特に魔物との戦闘に必要な道具はしっかり確認しておいてくれ。今日はもう解散する」


 二人は元気よく「はい!」と答えた。

 訓練場を後にしながら、俺は今後のことを考える。勇者たちの成長はまだまだ著しいが、実戦はまた別の厳しさが待ち受けている。

もし何か問題が起きれば、俺が彼らを守らなければならない。


翌日、二人はしっかりと休息を取ると、装備や食料の準備を進めていた。

特に、エリアスは武器の手入れに余念がなかった。彼は自分の剣を磨きながら、しきりに「これで大丈夫かな?」と呟いていた。


「エリアス、そんなに気にしなくても大丈夫だ。君は十分に成長している。気楽にとはいかないが、いつも通りやっていこう」

「そうですね。リクさんがいるから心強いです!」


俺の励ましにエリアスは少し安心した様子で、笑顔を見せた。

う~ん、できれば二人で頑張ってほしいところだ。

一方、セリナは魔法の準備に余念がなく、色々な魔法の詠唱を確認していた。

セリナは「魔物は待ってくれない……」と真剣な表情で呟いている。

俺はその様子を見守りながら、一カ月で二人の成長を実感する。実戦を前にして緊張感が漂うが、彼らならきっとやってくれるはずだ。


出発当日の朝。

準備をして訓練場に行くとエリアスとセリナが待っていた。


「おはよう」

「「おはようございます!」」


 元気な挨拶だが、正直俺はまだ眠い。


「元気なのはいいことだが、緊張しすぎるなよ。今日はピクニックだと思って、気楽に行こう」

「そう思えるのはリクさんだけですよ……」

「ほんとにね」


 エリアスとセリナの呆れたような呟きが聞こえるのだった。



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