第6話:エリアス

~勇者エリアスside~ 


 私は魔王を倒す勇者候補に選ばれた。もう一人の勇者候補であるセリナと出会い、仲良くなったと思う。

 使命感で押し潰されそうだったけど、セリナのお陰で元気にやれていると思う。

 陛下との謁見は緊張したけど、とても気さくな人だった。

 謁見の後は、陛下に呼び出され、私たちの師匠となる人を紹介された。その人は第三騎士団に所属していると聞き、第三騎士団の団長であるメイリス様と向かうことになった。

 第三騎士団の執務室に到着し、師匠となる人を呼びに行かせている。

 待っている間、メイリス様がその人物について話し始める。


「彼の実力は、私が見た中でも突出している。魔法が使えないと言いながら、その魔力量は並大抵の魔術師を凌駕しているし、制御も完璧だ。そして何より、彼の剣技――無駄がなく、圧倒的な力と精度を持っている。もし私が彼と真剣勝負をしたら、確実に負けるだろう。それもものの数秒で斬り殺される。あの戦争でも、彼が戦局を覆したのは一度や二度じゃない。だが、彼が戦争で見せた力はほんの一部に過ぎない。それに、彼は自分の力を決して誇示しない。むしろ隠している。それを知っているから、私は上層部にも彼の本当の実力についてはほとんど話していない。知っているのは一部の者と陛下だけだ。私含め、全員が、リクを敵に回すような愚行はしたくない」


 これから紹介される師匠について聞かされて、私は息を呑んだ。つまりは、国が個人を恐れているようなものだ。セリナも同じなのか、緊張していた。


 すると、到着したのか入室してきた人物は18歳くらいの少年だった。目鼻顔立ちは整っているように感じられる。装備は普通で、騎士には感じられない。兵士なのだろうか?


「団長、おはようございます。呼ばれて参上いたしました」

「うむ。おはようリク。以前話していた、勇者候補だ」

「彼女たちがですか。初めまして、第三騎士団所属のリクです」

「この度勇者候補に選ばれましたエリアスです! よろしくお願いいたします!」

「同じく、勇者候補のセリナです。よろしくお願いします」


 挨拶をし、そこから中を案内される。

 途中でリクさんに聞いてみた。


「リクさんはその、兵士なのですか?」

「うん? そうだよ。昇進なんてしたくないからね。兵士でいれば厄介なことに巻き込まれないで済む」

「リクさん。メイリス様や陛下、他の軍部の方も言っていましたが、本当に強いのですか?」


 実力者である団長や上層部が、敵に回したくないと言われるほどなのだろうか?

 するとリクさんは笑いながら答えた。


「おっと、秘密だ。あまりに強すぎて、国が隠してるんだよ。知っちゃうと、驚きで眠れなくなるかもしれないぞ?」


 冗談っぽく聞こえるが、真実なのか分からない。


「怪しいですね」

「ちょっとセリナ、リクさんに失礼ですよ!」

「だってエリアス、怪しくない? 上層部しか強さを知らない兵士って」

「そ、それは……」


 セリナの言葉に私は言い淀んでしまう。怪しいのは事実だ。


「でも、少なくとも朝のベッドから立ち上がるのには勝ってるさ。毎日が戦いだよ」


リクさんはそう言って肩をすくめ、少し笑ってみせた。

 し、信じられない……

 思わず疑いの視線を向けてしまった。


 午後になり訓練が始まると、その身のこなしに思わず驚いてしまった。

 勇者候補である私の攻撃が掠りもしない。騎士くらいの実力はあると、言われていたのにだ。

 セリナも同じことを思っていたようだ。

 夜になり、私はセリナと話していた。


「セリナはリクさんのこと、どう思う?」

「強かった。私のスピードは副団長ほどだと言われてたのに、リクさんは私を軽くあしらってた」

「信じていいのでしょうか?」

「多分、メイリス様が言っていたのは事実かも……」


 翌朝、いつまで経ってもリクさんが来ない。

 待っているとメイリス様と副団長がやってきて、どうしたのかと尋ねられたので、リクさんが来ないことを話すと呆れていた。


「またか……」

「リクにとってはいつものことですよ」


 副団長も苦笑いしていた。何があったのだろうか? ついて来るように言われ、食堂に行くとリクさんがいた。私たちに気付いたようだが、スルーして朝食を食べ始めた。

 って、団長もいるのにスルーですか⁉

 すると団長が歩み寄っていき、対面に座った。


「おっ、今日のスープは絶品だな!」

「それは良かった」


 私は怒られるんだろうなと思っていた。


「あ、団長おはようございます。団長も一緒にどうです?」

「……遠慮しておこう。それよりも、寝坊とは良い度胸だな?」

「寝坊だなんて……今日は特別な訓練をしてたんですよ。布団との戦闘が想像以上に手強くてね。思わず延長戦になったんです」


 ね、寝坊ですか……

 しかもメイリス様相手になんたる無礼ですか……

 セリナも驚きのあまり、固まっていた。怒っているだろう団長に対して、リクさんの態度は変わらない。


「そうか。言い訳はそれだけか?」

「……い、言い訳だなんて……そ、そうだ! この後デートでもどうです?」

「ほぉ、勇者候補を放置してデートだと? 私も忙しいのだが?」


 私達を放置でデートのお誘いしてますよ……

 するとメイリス様は大きな溜息を吐いた。


「そんな大きなため息、幸せが逃げちゃいますよ? 虫取り網でも持ってきましょうか?」

 誰のせいですか⁉


「もういい。朝食を食べたら勇者たちを鍛えるように」

「うっす」


 メイリス様、諦めましたね……

 道中、リクさんに聞くといつものことだそうで、それでいいんでしょか?

 そんなこんなで、今日は魔力を使う訓練とのことです。

 説明を受け、セリナが使ってほしいと聞く。

 事前に聞いていた通り、リクさんは魔法が使えないと言った。しかし、次の瞬間には、手のひらに魔力の塊が現れ、鉄の的へと向けて放たれた。

 大きな音を立てて、鉄の的はひしゃげていた。


「凄い……」


 小さいながらも、私は呟いていた。セリナも同様に「凄っ……」と驚いていた。

 同時に感じた。この人なら、私たちが魔王を倒す、強い勇者にしてくれると。



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