第5話:勇者の教育2
翌朝、のんびりしながら朝食を食べに食堂に行くと、勇者の二人が待っていた。
その隣には団長と副団長の姿があり、団長に関しては笑みを浮かべていた。
とりあず、見なかったことにして朝食を食べ始めた。
「おっ、今日のスープは絶品だな!」
「それは良かった」
対面の席を見ると、団長が笑顔を浮かべていた。勇者の二人と副団長は気まずい表情を浮かべている。
「あ、団長おはようございます。団長も一緒にどうです?」
「……遠慮しておこう。それよりも、寝坊とは良い度胸だな?」
「寝坊だなんて……今日は特別な訓練をしてたんですよ。布団との戦闘が想像以上に手強くてね。思わず延長戦になったんです」
俺は「いやぁ、手強かったなぁ」と言いながら、スプーンをくるくると回しながら笑った。
団長の眉がピクピクとしているが、気にしたら負けである。
「そうか。言い訳はそれだけか?」
「……い、言い訳だなんて……そ、そうだ! この後デートでもどうです?」
「ほぉ、勇者候補を放置してデートだと? 私も忙しいのだが?」
すると団長は大きな溜息を吐いた。
「そんな大きなため息、幸せが逃げちゃいますよ? 虫取り網でも持ってきましょうか?」
「もういい。朝食を食べたら勇者たちを鍛えるように」
「うっす」
団長は再び、ため息を漏らしながら「まったくあいつは……」と言いながら副団長と一緒に去っていった。
俺は朝食を手早く済ませ、中庭に移動する。移動の最中、エリアスが訪ねてきた。
「あの、リクさん。いつもああなのですか?」
「騎士団長相手に兵士のあなたが、あのような態度を取ってもいいのですか?」
セリナもエリアスと同じことを思ったのか、聞いてくるので答える。
「え? うん。それが俺だ。目立つの嫌いだが、それ以上に怠惰上等、それが俺さ」
「よくクビにされませんね……」
「ほんとに」
「まあ、戦争でそれなりの功績を上げたからね。昇進しろと言われた時は焦ったよ。もっと目立たないようにするべきだったが、味方の命がかかっていたからな」
二人は何も言わなかった。
そのまま訓練場に到着し、訓練が始まる。
「さてさて。今日は二人同時にかかってきな」
それから小一時間後、二人は訓練場の地面に横たわって荒い呼吸をしていた。
俺はタオルと飲み物を二人に渡す。
これなら次に移っても大丈夫そうだな。勇者の成長は早いな……
「ありがとう、ござい、ます……」
「ど、どうも……」
数分後、落ち着いたのか俺の話を聞く姿勢になっていた。
「さて。ある程度武器の扱いには慣れてきたかな?」
二人はコクリと頷いた。
「では、今日からは魔力を使った身体強化の講座をはじめよう。二人は魔力を使ったことはある?」
首を横に振る。
普段使うことなんてないからね。
俺は二人に、魔力の扱い方の説明を始めた。
「魔力の扱い方について説明するなら、まず基本から始めよう」
魔力は、俺たちが内に秘めているエネルギーの一種だ。
身体に流れる血のように自然と存在していて、意識的に引き出すことができる。それをどう使うかが、魔術や戦闘における鍵になる。
まず重要なのは、『集中』だ。魔力は常に俺たちの中にあるが、ぼんやりしていると、その力はただの潜在エネルギーに過ぎない。だから、まず自分の内側にある魔力に意識を向ける。
ゆっくり深呼吸して、自分の体に流れている感覚を掴む。それが魔力を扱う第一歩だ。
「感覚を掴むことが出来たら、次のステップだ」
次は『制御』だ。魔力を感じられたら、今度はそれを外に引き出す。この時、力加減が肝心だ。強引に引っ張り出すと、逆に制御を失って失敗することがある。少しずつ、まるで水を手のひらにすくうように丁寧に魔力を外に引き出していく。
「制御することが出来たらあとは簡単だ。魔力に形を与えるだけ」
最後に、「形を与える」。ただ魔力を外に出すだけでは意味がない。それを自分の望む形、例えば攻撃や防御の魔術に変えるには、イメージが必要だ。
明確に、自分が何をしたいかを頭の中で描く。たとえば炎の魔術を使いたいなら、炎がどう燃え広がるか、その熱さや勢いをしっかりイメージする。魔力はそのイメージに従って形を取るから、ここが一番クリエイティブな部分でもある。自身の発想力が試される。
「簡単に言えば、集中して、制御して、形を与える。この三段階が魔力を使いこなす基本だ。もちろん、これを実戦で活用できるまでには時間がかかるが、まずはここから始めるんだ」
俺の説明を二人は真剣に聞いていた。最後まで説明が終わり、セリナが手を挙げた。
「はい。セリナ」
「実際に見せてもらうことってできますか?」
「悪いけど、俺は魔力が他より多くあるけど、魔法だけは使えなくてね。その代わり、扱いには誰よりも上手だよ。だから――」
俺は手のひらに魔力の球体を作り出し、用意されている鉄の的にめがけて放った。
大きな音を立てて、的は無惨な姿になってひしゃげていた。
「こうやって、直接魔力をぶつけることはできる」
「す、すごい……」
エリアスが呟く。隣でセリナも驚いた表情をしていた。
「まずは感じ取るところから始めようか」
「「はい!」」
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