第4話:勇者の教育1
翌朝。俺は憂鬱な気分だった。理由は、今日から勇者たちの教育を始めるからである。
教育とはいっても、主に戦闘面での教育だ。
そこで俺は閃いた。無能さをアピールして、勇者自ら教官の変更を申し出させよう!
そう思うと気持ちが楽になった。鼻歌交じりに朝食を食べ、同僚たちから揶揄われながらも時間が過ぎ、団長に呼ばれた。
執務室に入ると、団長の他に副団長と少女が二人。見た感じまだ十代のようだ。恐らく、この子たちが勇者なのだろう。
「団長、おはようございます。呼ばれて参上いたしました」
「うむ。おはようリク。以前話していた、勇者候補だ」
「彼女たちがですか。初めまして、第三騎士団所属のリクです」
「この度勇者候補に選ばれましたエリアスです! よろしくお願いいたします!」
「同じく、勇者候補のセリナです。よろしくお願いします」
エリアスと名乗った少女は、誰もが振り返るほどに美しい。白銀の髪が陽の光を受けて輝き、碧い瞳はまるで清らかな泉のように澄んでいる。
もう一人のセリナと名乗った少女は、エリアスと同様に、誰もが振り返る美しさをしている。金色の髪が窓から入った風に揺れ、その碧い瞳は冷静で、決意に満ちている。彼女は、勇者という使命感に突き動かされているように感じる。
彼女らは王国が期待する勇者候補であり、周囲から「次代の希望」として期待されている存在だ。
「さて、二人をこれから鍛えるのが、そこにいるリクになる」
「ただの兵士ですけどね」
「陛下から直接頼まれていて、何が兵士だ。本来なら副団長まで昇進しているだろうに……まあいい。二人もリクから色々と教わるといい」
「「はい!」」
「それじゃあリク、後は頼んだ」
「いやいや団長、何か指示は? 俺の仕事は?」
「言っただろう? 勇者を一人前にするのがお前の仕事だ。例外で任務を頼む場合もあるが」
「はぁ……わかりましたよ。それじゃあ、まずは色々と中を案内するよ」
俺は勇者二人に第三騎士団が暮らし、訓練する場所を紹介していく。案内をしていると昼になり、食堂で昼食を食べることに。
「リクさんはその、兵士なのですか?」
「うん? そうだよ。昇進なんてしたくないからね。兵士でいれば厄介なことに巻き込まれないで済む」
「リクさん。メイリス様や陛下、他の軍部の方も言っていましたが、本当に強いのですか?」
セリナの真剣な問いに、俺は一瞬考える。だが、ここで素直に答えるのはどうにも性に合わない。
「おっと、秘密だ。あまりに強すぎて、国が隠してるんだよ。知っちゃうと、驚きで眠れなくなるかもしれないぞ?」
冗談めかして軽く返しながら、セリナの反応を伺う。彼女がどう受け取るかは、分からないけどな。
「怪しいですね」
「ちょっとセリナ、リクさんに失礼ですよ!」
「だってエリアス、怪しくない? 上層部しか強さを知らない兵士って」
「そ、それは……」
エリアスも同じように、俺が強いってことは嘘だと思っているのだろう。
しかし、安心してほしい。そのまま俺は、雑魚を演じるだけだ。
「でも、少なくとも朝のベッドから立ち上がるのには勝ってるさ。毎日が戦いだよ」
俺はそう言って肩をすくめ、少し笑ってみせた。
すると疑いの眼差しが向けられる。
う~ん、疑っているねぇ……。このまま疑ってくれたらいいのだけど。作戦はうまくいくかな?
朝食を食べ終えた俺たちは、訓練場がる中庭にやってきた。この場所は俺と勇者専用の場所になっており、他に誰もいない。
「さて、午後からは訓練を始めるけど、得意な武器は?」
「私はずっと村で暮らしていて、特にこれといったのは……」
「私もです。街で暮らしていたけど、武器は使ったことがないですね」
「おっけー」
俺は武器庫から一通りの得物を並べていく。
「この中で気になった武器で俺に攻撃してきてね」
「え? ですが……」
「大丈夫だよ。勇者候補と言っても、初心者なんだ。攻撃なんて当たることないから」
「わ、わかりました!」
エリアスは少し遠慮気味だな。勇者らしく、もっと堂々としてほしいものだ。セリナはすでに武器を選んで軽く振って確かめている。
程なくして二人は武器を選んだようだが、結局剣を手に取った。
無難と言えば無難だろう。
俺は木剣を手にエリアスと対峙する。
「遠慮なく、殺す気でかかってきな」
「はい! いきます!」
何度か打ち合っていると、勇者の力なのか動きが素早く、そして力強い。バランス型だが、それだけ。今は特筆したような技術や力はないようだ。程なくしてスタミナがなくなったのか、エリアスは尻もちを着いた。
「ま、参り、ました……」
「うんうん。回復したら、他の武器を使ってみよう。他に仕える武器があった方が、いざとなった時役に立つ」
「わかりました!」
続けてセリナと対峙する。
バランス型のエリアスとは違い、素早い攻撃を続けるセリナはスピード型のように思える。
程なくしてセリナもスタミナが尽きたのか、降参した。
「少し戦いずらそうだったね。スピードを生かした戦いをするなら、双剣とかどうかな?」
「……はぁ、はぁ、わかり、ました」
一度休憩を挟むことにした。
休憩が開けて、一日中教えていき、その日は終わった。
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