第3話:頼むから嘘だと言って
もしスマホがあったなら、SNSで「王様と王女様、上司と一緒に優雅なティータイム」とアップしていたことだろう。
「謁見で言ったのは事実なのか?」
「はい。あまり目立つと、逆に厄介なことになりそうで……やっぱり、普通の兵士としての生活が一番安定する気がします」
「リク様は、密かに注目されていますよ」
「え? 王女様、本当ですか?」
「事実ですよ。それとアリシアで構いません」
どうやら俺の注目されているらしい。
「帝国との戦争で、敵将を討ち取ったのが大きな要因でしょう。一部の者しか知らないようですが」
「一体誰が……俺は黙っておくように言ったのに」
誰が言ったのかを考えていると、俺の肩に手が置かれた。それは紛れもない、団長の手であった。隣を向くと、そこにはニコニコと笑みを浮かべている団長の顔があった。
「だ、団長、誰から聞いたのですか?」
「君と一緒に動いた部隊の者からだ。どうして私に黙っておくように言ったのかな?」
ツーッと冷や汗が流れ落ち、視線を彷徨わせる。
「ああ、団長、それは……バレると、さらに面倒な任務が増えるかと思って! ほら、謙虚さが俺の美徳ですから!」
「……」
睨まれる俺は、慌てて言葉を続ける。
「ほら、団長だって大事なことはタイミングが肝心だって言うじゃないですか! ……ただ、ちょっとそのタイミングを見誤っただけっていうか、まあ、そんな感じです!」
「……ほう。今まで報告せずにずっと黙っていたと?」
「何事も控えめにが、俺のモットーですから」
そう告げて満面の笑みを浮かべると、団長からため息が零れる。
「そんなにため息が多いと、幸せが逃げていきますよ? 自分は逃げないようにしてますけどね。それでも何故か、ただの兵士である俺に、難しい任務ばかり回ってきますけど。不幸で仕方がないです」
俺はやれやれと肩を竦めて見せると、団長のこめかみがピクピクと痙攣していた。
あ、まずい。これはイラついている。
そんなやり取りをしていると、突然笑い声が聞こえた。他でもない、アリシア様である。
陛下も隣で愉快そうに笑っていた。
「ごめんなさい。リク様のあまりの態度につい」
「私も面白いものを見せてもらった」
「アリシア様に陛下まで……部下がすみません。教育し直します」
「よいよい。その方が、こっちも気が楽でいい」
「ええ。リク様らしいですね」
そして話題が変わり、陛下が真剣な表情となる。
「して、本題は勇者候補の件だ」
「可能なら、勘弁願いたいのですが……」
「却下だ。リクのような戦力、戦略知識。どれもが優れ、参謀本部ですら顔負けだ。だからこそ、信頼して頼んでいるのだ」
「はい。兵士である俺に拒否権はありませんからね」
「そういうな。実力を見込んでお願いだ」
お願いと言う名の「命令」ではあるけどね。
「お受けいたしますよ。今更ですし」
「そうか。で、その勇者候補の選定が終わった。人数は三名だ」
「私はその三人を鍛えればいいんですね? どの程度まででしょうか?」
「魔王を倒せるまでだ。方法は任せる」
俺は『魔王』という言葉に反応する。
「……強いのですか?」
「ああ。かつての大進行を知らないわけではあるまい?」
【大進行】
数百年も昔、魔王が出現し、魔族に魔物と大軍にて人類へと侵略をはじめた、人類の存続をかけた戦いのことだ。
「なのに帝国は侵略を続ける。愚かなことだ。なあ、リク。皇帝を暗殺してきてくれんか?」
「お父様⁉ 突然なにを言っているのですか!」
「そうですよ陛下。誰が聞いているか……リクも何か言ったらどうだ?」
そこで話を振らないでくださいよ。
「いやぁ、暗殺は得意じゃなくて……護衛も多そうなので、その始末をするってなると、面倒くさいですね」
「……できないとは言わないのだな」
「……あっ、受け答えミスった」
「「「……」」」
三人から何とも言えない視線が突き刺さる。俺は明後日の方向を向いて、視線を逸らすのだった。
その後は適当な他愛もない雑談をし、時間が過ぎていった。
兵舎に戻った俺は、普段着に着替えてベッドにダイブした。今日はもう仕事がない自由時間だ。褒美で明日も休みをもらっている。なんて至福時か――コンコンとノック音が響く。
「リク、団長がお呼びだぞ」
「……」
「リク、いるだろ?」
「……いない。もう寝ている」
「いるじゃないか! 早く来い!」
「へいへい」
俺は普段着のまま、団長がいる執務室へと向かい、そのまま入室する。
入室してすぐ、俺に向けられる視線が冷たい。理由は明白。だって普段着のままだし!
「今日はもう休みなのに、呼ばれて不機嫌な私がただいま参りました」
「……それは謝る。しかし、時と場合を考えろ。ここは職場だぞ?」
休みの部下を呼び出す上司がいてたまるか!
「明日、勇者候補の三名が第三騎士団の訓練場に顔を出すことになった」
「急ですね」
「ああ。今さっき連絡が来た。顔合わせのようなものだ。陛下からの命もあるから、お前に任せる」
「えぇ……俺の至福の時間は? 優雅な休日を過ごそうと思っていたのに……」
「諦めろ。あとで別日に休みを作る」
「それって、勇者が一人前になるまで、とか言わないですよね?」
「……多分」
「頼むからそこは否定して⁉ 何が騎士団だ。ブラック騎士団の間違えだろ……こうなったら勇者候補で憂さ晴らししてやる!」
「ほどほどにするように」
俺は愚痴を零しながらトボトボと自室に戻るのだった。
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