第2話:気楽が一番
「面を上げよ」
陛下の言葉に俺と団長は顔を上げた。
「第三騎士団所属のリク。帝国との戦争及び、先の国境での功績、しかと聞き及んでいる。帝国の謀略をよくぞ見破った。おかげで王国はより盤石となった」
「勿体なきお言葉、身に余る光栄です」
こんな感じでいいんだろう? チラッと団長を見ると、問題ないのか微笑んでいるだけ。
周りも特に大丈夫そうだ。よし、大体はわかった。
「リクよ。そなたの功績は計り知れない。なにか望みのものを申してみるといい」
……え? 急に言われても困るんだが。
周囲も早く言え的な雰囲気が出ており、俺の胃がキュッと締め付けられる。こういった緊張には慣れていないので困りものだ。
しかし、早く言わなければ……そうだ!
「では一つ、よろしいでしょうか?」
「なんでも申せ。富、爵位を与えることだってできる」
「いえ。私には恐れ多いです。ですので、このまま一般兵士として王国に貢献させてください」
瞬間、周囲が静まり返った。あれ? 受け答え間違えたかな?
「な、なにもないのか?」
「いえ。私には一般兵士でいることが、何よりも望んでいることなのです」
「何度も申すが、本当に何も要らないのだな?」
「はい。功績なんて、たまたま運が良かっただけの、偶然の産物です。これからも一般兵士として、皆の役に立てるのが一番ですから。目立たないように、さりげなく貢献するのが理想です」
すると陛下の表情に変化があった。笑っていた。
「ハッハッハ、面白い少年だ。わかった。その望みを叶えよう。だが、帝国領を散歩していて、砦内の敵が全滅していたのも偶然なのか?」
鋭い目つきで問い質される。
周囲も同様に、砦を一人で陥落させた俺の戦闘力が気になっているのだろう。
「偶然と言っても、まさか散歩中に『敵全滅コース』を選ぶとは思いませんでしたから、これも運命のいたずらですね。次は『平和散策』で、敵が全くいないことを願っています」
「ハッハッハ! 本当に面白い少年だ。それなりに人となりは掴めた」
どうやら俺のユーモアとウィットを交えた返しは、陛下に受けがよかったようだ。
陛下は続ける。
「ふむ。しかし、無褒賞では私の顔が立たない。多少の褒賞金を出すとしよう」
「ありがとうございます」
「では、リクに次の勅命を出す」
え? この流れは聞いていないんですけど?
「――来るべき戦いに備え、勇者候補を育成せよ」
ああ、元々団長から聞いていた話だ。なるほど、ここで勅命ということにすれば、周囲から何かを言われることも少ない。
元々強制的に決められた任務だ。
「謹んでお受けいたします」
「うむ。では、これにて謁見を終了する」
陛下が退出し、俺と団長も退出する。廊下を歩きながら、団長が俺に言ってくる。
「まさか、何も望みを言わないとは驚いた」
「本当に、目立たず生きていくことが目標ですから」
「もう目立っていると思うが?」
「なら、これからは静かにします」
すると、後ろから俺と団長の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると騎士が走って来て「陛下から、個人的にお話がしたいとのことです」と言われ、案内されることに。
一室にやってきた俺と団長は、部屋の中へと通された。
そこには国王であるリオネスの他に、一人の美しい少女が座っていた。
「よく来てくれた。さあ、そこに座ってくれ」
陛下の言葉に、俺と団長は対面に着席する。
すぐに飲み物が運ばれてきて、給仕のメイドが一礼して部屋を出た。
「さて、どうして君がここに呼ばれたのかがわかっていない様子だ」
「……はい。どういったご用件でしょうか?」
「なに、個人的に君と少し話がしたくてね」
「なるほど。それで……」
俺の視線が陛下の隣に座る少女へと向けられる。
金色の髪は、まるで陽光が流れ込んでいるかのように輝いている。その髪は肩から背中にかけて自然に流れ、微かに揺れる度に、光を反射して柔らかな金の波を描いていた。
彼女の瞳はまるで透き通るような碧い湖のようで、その澄んだ輝きが何かを見透かしているかのようだ。そんな彼女の瞳からは、どこか温かな優しさが宿っているのが感じられた。
「私はアリシア=フェルドゥール=アルカディア。アルカディア王国の第三王女です」
いや、うん。一言いいかな? ……なんで王女様も一緒なの?
「たまたま時間が空きましたので、最も大きな功績を上げたリク様にお会いしたいと思い、ご一緒させていただきました」
「あ、はい…‥‥」
王女様に興味を持たれてしまったと。これは目立ってしまう。
「メイリス団長もお久しぶりです」
「アリシア様、お久しぶりです。お会いできて光栄です」
「いつも通り、堅苦しいですね。私にはいつ通りでいいのに」
「御謙遜を」
団長の表情に変化はない。
「リクよ。本当に褒美は何も要らないのか?」
「結構ですよ。一般兵士なら厄介なこともなく気楽でいいですから」
「無欲だな。もっと欲を出していいと言うのに」
「勘弁してください。これ以上目立ちたくないんです」
「リク様は変わった方ですね」
「アリシア様、リクは元からこう言った人間です」
するとアリシア様はふふっと笑うのだった。
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